菅原文太がバカ政、中山仁がホラ政、ケーシー高峰がトッパ政に扮し、倍賞美津子、伴淳三郎がゲスト出演、監督が中島貞夫、主題歌を歌っているのが美空ひばりという、今では考えられない豪華版だが、シリーズ化されなかったところを見ると、あまり当たらなかったのだろうか。
ラストはさながら浅草妙清寺事件を彷彿とさせるような、葬儀場に乗り込んだバカ政たち3人がハチの巣のように銃弾を浴びるシーンで終わっているのだが、もとより私がいまだ浅草妙清寺事件もバカ政も銀座警察も知らなかった頃だ。
まさかこの映画から8年後、モデルとなった親分の唯一の若い衆といわれる人と取材で出会って、大いに触発され、やがて自分がそのバカ政さんの物語を書くことになろうとは、夢にも思わなかったのだから、感慨深いものがある。
「あれだけは他の誰にも真似できるもんじゃない」「そりゃシビれますよ」バービーが語る浜本の凄さ
金子バービーは、最初の取材の時から、親分・浜本政吉の話題に触れて、冗舌であった。
「ロスから帰って浜本と会った時は、『てめえは銭なんかいっぱい持って行くからそういうことになるんだ。何がアメリカだ! 傲った心がいけないんだ』と、さんざん怒られました。30年、浜本に仕えてきて、私はズーッと怒られっ放しできたからね。
正直言って、うるさいジジイと初めは思っていたけど、私も負けず嫌いで、怒られないように直していって1年経った時、確実に私自身が変わっていることに気づいた。つくづく親のありがたさがわかりました。浜本系というのは何千人おって舎弟も大勢おりますが、私が唯一の若い衆。それに恥じないよう、親分に負けないような男になろうと思ってます」
浜本の通算懲役年数は金子より長い23年。獄中では禅書ばかり読んで、摑んだ極意が沢庵和尚の《心こそ心まよわす心なれ、心に心、心許すな》であったというから、やはりヤクザとしては大層変わっている。
「浜本の凄さは、土壇場での所作の見事さ。あれだけは他の誰にも真似できるもんじゃない。あの肚の据え方、そりゃシビれますよ」
とバービー氏に聴いた時から、私のバカ政さんへの興味は沸々と湧いてきたのだった。
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金子幸市氏が世間の注目を集めることになった“手首ラーメン事件”とは――。以下のリンクから続きをお読みいただけます。