――いつも何を見たり聞いたりされていますか? 発想の源になっているような、日常の一コマはありますか?
佐々木 発想の源はあまりないので、もっと色々見たり読んだりしたほうがいいと思います。
雑誌は女性ファッション誌、美容雑誌、生活情報誌をはじめ、日経Woman、Tarzanなど特集に応じていろいろ読みます。かつて最も好きだったのは、Myojoに付いてきていた「YOUNG SONG」(通称ヤンソン、現在は廃止)という付録雑誌です。新発売のJ-POPの歌詞が大量に全文掲載されていました。歌詞を読んで小説を書きたくなる性質はヤンソン熟読によって培われたものかもしれないと今、気づきました。
最もよく読む小説は、小川洋子さんの短編集『偶然の祝福』の中の「キリコさんの失敗」です。小説が書きたいのに書けないときに読むので、毎週のように読んでいます。特に最後の一行を読むと、自分も書けそうな気持ちになれます。
――収録作「池田の走馬灯はださい」は、ある東北の田舎町から東京に憧れをもって上京した女の子を描く一編です。地方女子なら誰しも感じたことがあるであろう「閉塞感」と、東京への過度なあこがれと適応に胸が詰まります。佐々木さんご自身も秋田県のご出身ですが、上京のきっかけや、上京した当時の思い出で印象深いものがありましたらお聞かせください。
佐々木 上京の直接的なきっかけは進学です。できるだけ透明人間のように生きたい願望があり、都会のほうが透明人間に近づけるんじゃないか?と思っていたと思います。
上京後の印象深い思い出は、大学の入学式の日、想像以上の学生の華やかさ、堂々としている感に圧倒され、学食の隅で泣いたことです。
――胸が詰まるようなシーンもありながら、最後は光のほうへ向かっていく佐々木さんの筆致、素晴らしいです。本作は「元気になってほしい」と作られた曲と、登場人物の気持ちがリンクするような場面もありますが、「元気になってほしい」という気持ちは佐々木さんの中にもあるものですか?
佐々木 元気になってほしいというよりは、「元気はあってもなくてもいいけれど、幸せに過ごしてほしい」という気持ちが近いかもしれません。元気がないまま楽しく生きてきた者としては、「元気出して」と言われると「元気なくても楽しいよ」と言いたくなるのですが、そう言ってくれる人から素直に元気をもらえる人になりたいものだな……という気持ちで書きました。元気がない人が、元気がないまま幸せで楽しい小説を書けるようになりたいです。
――次回作につきまして。書いてみたいもの、テーマなど、ありましたら教えてください。勝手に佐々木さんのことを「令和最強の恋愛小説家」と書いておりますが、「恋愛小説」の現在、理想の「恋愛小説」についても、お伺いできればうれしいです。
佐々木 長編の恋愛小説を書きたいです。恋愛小説に救われてきたので、「令和最強の恋愛小説家」になれるものならなりたいです。
恋愛小説の現在と言われるとまだわかりませんが、恋愛しないほうが生きやすい時代なのに恋愛してしまった、それで痛手を負ってしまった・負わせてしまった人が立ち直っていく物語は読みたいです。
理想の恋愛小説で思い浮かべるのは、穂村弘さんのエッセイ『もしもし、運命の人ですか。』で書かれていた、「お互いの本名も年齢も知らない夫婦」が「毎年の結婚記念日に『贈り物』として、ひとつずつ互いのことを教え合う」ような世界です。すばらしいですね……。
