日本には146万人いると言われる「引きこもり」。漫画家・宮川サトシさん(47)はそんな"引きこもり当事者"を家族に持つ一人だ。15歳上の長男は両親が他界した今も、30年以上にわたって実家で孤独な引きこもり生活を続けている。

宮川サトシさん ©文藝春秋

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「日常的に大声で叫んだり、物を壊したり…」引きこもりの長男との関係

「『家に変な人がいる』という感じだったんですよ。日常的に大声で叫んだり、物を壊したりする面倒臭い奴がいるというか」と宮川さんは幼少期の長男との関係を振り返る。

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 小学生の頃、夜中に目を覚ますと長男が包丁を持って立っていることがよくあったという。リビングとキッチンの間のガラス戸を長男が割ることも「日常茶飯事」だった。15歳上の長男は高校卒業後に工場で働いていたが、休みがちで、最終的に引きこもるきっかけになったのは、ある事件だった。

「包丁を持った長男のそばに母親が倒れていた」

「高校生だったある日、家に帰ってきたら母親の悲鳴が聞こえて。駆けつけると、包丁を持った長男のそばに母親が倒れていた。制止しようと長男を殴り、倒れ込んだ長男の背中を蹴ったんです」

 その結果、長男の脾臓(ひぞう)は破裂。入院を経て、仕事をやめることになったという。宮川さんは、自分の一撃が、その後30年以上にわたる引きこもり生活の発端となったと感じている。

 

「長男の存在を隠していたことが最大の罪悪感」長男を題材にした漫画の連載を始めたワケ

 宮川さんはこれまで家族のエッセイ漫画を多数発表してきたが、長男のことは一度も描いてこなかった。「長男の存在を隠していたことが最大の罪悪感」だと語る。今回、編集者の提案で長男を題材にした『名前のない病気』(小学館)の連載を始めた。

「この漫画を描くことによって僕自身が楽になった。今まではただただ辛い過去だったことが、漫画になることで『ネタ』だったり『おいしい』ことに変わる。長男からがなり立てるような電話があるたびに嫌だったり憂鬱だったりしたのが『面白い』に変わる」

「ああ、よかった。生きてた。元気かな」漫画の制作を通じて変化した兄への想い

「ふつうの家庭じゃなかった」と振り返る宮川さんだが、漫画の制作を通じて長男との関係性が劇的に変化した。「今は長男から電話がかかってきても『兄貴』と呼べるようになっている。かかってくる電話が嫌じゃないんですよ。『ああ、よかった。生きてた。元気かな』と思えるようになった」

 宮川さんは「もっと、辛い生活を送って来た人たちが自分や家族の話をしたり、描いたりすることが広がればいい」と語る。

「もちろんプライバシーなど守らないといけないことはたくさんありますけど、表現することまで我慢する必要はないんじゃないか」

 

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 このインタビューの本編は、以下のリンクからお読みいただけます。

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