私のもう一つの経験では、とくにニホンカモシカが通ったあとは、まさに“大トリ”という感じでツキノワグマもよく通る。ツキノワグマがやってくるのは、先に通っている哺乳類を餌にするためというより、ほかの動物のにおいがすると安心するからではないだろうか。
だから、私は、獣道のあった場所の近くの住民に「カモシカを見かけたらクマに注意して下さい」と必ず伝えることにしている。
同時に、住宅地などに入ったツキノワグマ以外の大きな哺乳類も、ツキノワグマがやってくる前になるべく早く山に追い返すことが大切だ。
「毎晩のように通っていた」ツキノワグマの“目的”は…
この日のロケでは、この町田市内の現場のあと、そこから近い神奈川県相模原市の一戸建て住宅に向かった。
ここではしばらくの間、ほぼ毎晩、部屋の窓の外の暗闇から大型の動物の気配がするので、そこの住民がイノシシだと思い、猟友会にお願いしてイノシシ捕獲用の罠をかけてもらった。
しばらくしてその罠にかかったのはイノシシではなく、なんとツキノワグマだったのである。
「毎晩窓の外から聞こえていた音の主はクマだったかもしれないんですね」とその家の住民は震え上がっていた。
この事件は、私が現場を訪れる前に起きていたのだが、ここにツキノワグマが来た理由を考察してテレビカメラに向かって話すのが私の仕事だった。
そして、その答えはすぐに出た。理由は主に二つあり、一つは、家の近くにオニグルミの大きな木があることだ。ツキノワグマはオニグルミの実が大好きなのだが、それが秋なのでたくさんなっているし、地面にも落ちていたのだ。
もう一つは、その木のすぐわきに道志川という川が流れているということだ。
野生哺乳類は川に沿ってよく移動する。流れに沿って草木が繁ったり、道路などより低いところを水が流れていたりして、人目につきにくいからだ。しかもそこを通るときに餌を見つけることもできる。
このツキノワグマは、おそらく、毎晩のようにねぐらにしていた場所から、川に沿ってこのオニグルミの木へ通っていたのだ。

