新宿・歌舞伎町の朝、アスファルトにうずくまる老女に声をかけると、返ってきたのは「ホテルですか?」の一言だった。

彼女はなぜ30年も立ちんぼを続けたのか――(写真:筆者提供)

 久美さん(仮名)は60歳を超えているが、「立ちんぼ」として路上に立ち続けている。かつては家庭のある母親だった彼女が、なぜこの街で「路上の人生」を送ることになったのか。その壮絶な半生に迫る。 ノンフィクションライター・高木瑞穂氏の『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)のダイジェスト版よりお届け。

「ネカフェ暮らしすらままならない」彼女の生活

 大阪生まれの久美さんは20歳で結婚し、一女に恵まれた。24歳で夫のギャンブル狂いと浮気を理由に離婚後、女手一つで娘を育てるため若専の箱型ファッションヘルスで働き始めた。

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「で、30歳くらいで泉の広場で立ちんぼをするようになりました。店も客も若い子のほうがいいから、ほら、いつまでも雇ってくれないでしょう」と久美さんは語る。

 大阪・梅田の地下街にある泉の広場で、久美さんは1万円ほどの対価を得て男たちに抱かれるようになった。「2、3万で売れることもあった」と回顧する。

 その後、久美さんは東京・新大久保でチャットレディの職などに就いた時期もあったが、最終的に新大久保周辺のハイジアと大久保公園一帯での売春に行き着いた。娘が成人し独立した40代以降も、彼女は路上に立ち続けている。

売春単価は3千円から5千円

 現在の売春単価はひとり頭3千円から5千円。しかし、多くの場合はたった千円で性行為に及んでいるという。冷やかし客が興味本位で声をかけ、その安さから交渉が成立し、公衆トイレや雑居ビルの踊り場でサービスを提供する生活が続いている。

 久美さんの暮らしはさらに過酷だ。収入は良くて1日数千円、時にはゼロの日もある。ネットカフェに「夜から朝までのナイトパック」で泊まり、朝9時頃に出ると夜10時までずっと路上にいる生活だ。

数千円でカラダを売り続ける久美さん(写真:筆者提供)

「公園付近にいたり、ハイジアの階段で座ったり、数時間ごとに場所を変えてね」と久美さんは語る。長年の経験から編み出した客を取るための処世術だという。

 持ち物は使い古した紙袋とエコバッグのみ。中には使い捨ての歯ブラシやコットン、替えの下着類、財布や化粧道具などが乱雑に入っているだけだ。コインロッカーに預けていた荷物もA3ノート大のエコバッグひとつだけで、中身はポリエチレン袋の束やタオルなど、取るに足らないものばかり。携帯電話すら持っていない。

 最後に娘と連絡を取ったのは4年前。彼女は自分のことよりも、娘が元気にしているかどうかだけを気にかけていた。

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