水野 これは何だろうと思って。僕はこの人を好きになれないし、何ならいなくなってほしいと思ってしまうほどだけど、曲はこの人を楽しませている。分かりあえないはずの両者の間に愛の歌を置くと、一緒に眺めることができて、ひょっとしたら分かりあえる部分もあるかもしれない。愛するという機序は同じだから、そこを突破口にちょっとだけ話し合うことができるかもしれない。そう考えると曲がある方がいいし、万人受けというのは大事なんです。
有働 なるほど。人と人との間に置くために、作品は無記名なものであってほしいということですか。
水野 そうなんですよ。曲が僕の主張になると、僕の下に置かれてしまうので。
曲作りは短距離走の連続
有働 水野さんって人当たりがよくて、真面目で誠実そうなリーダーだなというのが一般的なイメージでしょうけど、本当はどういう性格だと自分では思いますか?
水野 え〜、わからないですね。
有働 5つ挙げてください。
水野 適当。
有働 ほー、1つ目が、適当。
水野 根が適当です。理詰めだとか、めんどくさそうとよく言われ、めんどくさいのは事実ですけど。
有働 そうなんだ(笑)。
水野 最後は結構適当というか、細かいことは気にしないです。2つ目は、他人に興味がない。10代の頃に母親から「もっと他人に興味を持ちなさい」と言われ続けていたんですけど、当時はどうしてそう言われるのかもわからなくて。
有働 野球部のキャプテンをしていたのでしたよね?
水野 それも自分が真ん中に立ちたいとか、野球を楽しみたいといった理由で、自分にしか興味がなかったんですよ。
有働 今もないですか?
水野 多分ないです。ただ年齢が上がるにつれて人に接しなくなっていくのはまずいと思って、この対談のように、あえて人と会うようにしています。3つ目は、コツコツ何かをやることができない。
有働 うわぁ、意外です。コツコツ型でないと曲をあれだけ生み出せないのではないですか?
水野 あれは短距離走の連続なんですよ。長距離走ができないです。
〈水野良樹さんが5つめに挙げたキーワードは、この続きで語られています〉
※本記事の全文(約8800字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年12月号に掲載されています(水野良樹×有働由美子「ポップスは、分かりあえない人と分かりあうチャンス」)。
