高市総理の誕生と中国側の反応

 10月21日、高市政権が成立した直後から、中国メディアでは「日本政治の右傾化」「対中強硬派の登場」といった、対日批判の常套句である固定化された表現が多数見られた。外交部報道官も「歴史・台湾など重大問題の政治的約束を守ることを望む」と述べ、警戒感を隠さなかった。中国は高市総理の過去の発言や著作を丹念に拾い上げ、台湾に関する姿勢や価値観外交の強調を「硬直化した安全保障観」と批判的に見ていた。

習近平国家主席 ©時事通信社

 中国が最も注目したのは、高市総理の「台湾=日本の安全保障」という一貫した認識である。中国は従来より、アメリカが徐々に台湾問題を米中戦略競争の中心に位置づけつつあるのではないかと疑っており、そうした中で中国が最も注視する日本の姿勢である。

 高市総理は、価値観と安全保障を結びつけて語る政治家であり、「台湾は基本的価値を共有する重要なパートナーである」と強調するが、この点が北京の警戒を招いているのである。慣例に反し、習近平国家主席から祝電が送られなかったという事実は、北京が当初から高市総理を“観察対象”として扱おうとしたことを象徴していた。

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韓国APECでの日中首脳会談:なぜ実現したのか

 中国側は高市政権に警戒感を強めていたにもかかわらず、「意外にも」韓国APECの場で日中首脳会談が実現したことに触れてみたい。

 日本の報道では「直前まで決まらなかった」と伝えられたが、実際には10月末の時点で中国は“原則的に”会談実施の方向で動いていた。この判断の背景には、10月28日の茂木・王毅外相電話会談がある。

 中国は首脳会談を行う際、必ず事前に外相レベルで“地ならし”を行う。中国側の発表によれば、その会談で王毅外相は「日本の新内閣が発した積極的なシグナルに注視している」と述べている。「積極的なシグナル」とはなんであったのか。二つ存在した。

垂氏の著書『日中外交秘録』(文藝春秋)

※本記事の全文(約9000字)は、「文藝春秋」1月号と、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(垂秀夫「前駐中国大使が渾身の緊急提言! 高市総理の対中戦略『3つの処方箋』」)。 

出典元

文藝春秋

【文藝春秋 目次】前駐中国大使が渾身の緊急提言! 高市総理の対中戦略「3つの処方箋」/霞が関名鑑 高市首相を支える60人/僕の、わたしの オヤジとおふくろ

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