「以前、短編で『同性愛』を物語の要素の1つとして使ったんです。そこに自分の中で引っかかっていて、今度はメインテーマに据えて書いてみたいと思った」
『君の顔では泣けない』が実写映画化を果たし、話題沸騰中の君嶋彼方さん。この度、連作短編集『だから夜は明るい』を上梓した。
最初の語り手となる文也はゲイバーで偶然出会った祥太と同棲して1年半。仕事で生活リズムが合わない2人が一緒に摂る休日の遅い朝食は、かけがえのない逢瀬だ。第1話「ヴァンパイアの朝食」はその場面から始まる。
「同性愛者であることに負い目を感じている文也を、日向を歩けない、夜にしか動けないヴァンパイアに例えました。一方の祥太は元々女性と付き合っていて、結婚して、子どものいる幸せな家庭を持つ、世間でいう『普通』の日の当たる生活をできたはずの人。文也は彼を暗い夜の世界に引きずり込んでしまったと思っている。2人に夜はどう見えるのだろう……そんな意味をタイトルに込めました」
この1話で完結したつもりだったという君嶋さん。
「編集さんに『ぜひ連作短編に!』と言っていただいて(笑)。それなら他の人の立場で書いてみようかと」
第2話「自殺者の午睡」では祥太の元カノの美里が語り手に。続く第3話「夕立に悪魔」は君嶋さんお気に入りだという、祥太の友人・宮川の視点から描かれる。
「ピアスや髪色で見た目はバチバチなんですが、常に物腰が柔らかい。言語より肉体でコミュニケーションできたら楽だろうなっていう独自のセックス理論を持っている子で、僕も共感できる瞬間があるんです」
各話で視点人物が変わる構成には理由があるという。
「考える中で、文也たちの周りの人って2人をどう思ってるんだろう、と。同性愛者を主人公に据えたお話って、周りがものすごく理解があったり、嫌悪感を抱いていたり、極端なイメージがあったんです。でも実際には、口では嫌だと言っててもなんとなく理解できる人だとか、逆に理解はしたいと思っていても嫌悪感が拭えない人もいるだろうなと思って。そんなグレーな人たちを書きました」
第4話「聖人たちの晩酌」は祥太の父親の視点だ。息子に同棲相手を紹介したいと言われ、てっきり「彼女」を連れてくるものだと思っていたのだが……。
「カミングアウトするときに一番意識する相手は両親。今は同性愛を否定しちゃいけない風潮がありますけど、息子がそうだった時にどう思うのか。自分の子供にも同じことを思えるのか」
第5話「醜いあひるが真夜中に」は2人の出会いの場であるゲイバーのママによる語り。
「文也たちの対極を書きたかったんです。丸く収まるだけじゃなくて、こんな未来もありうるよね、と」
そして、最終話「ヴァンパイアの夜明け」で視点が文也に戻る。祥太との生活はお互いの仕事の忙しさに埋もれつつ淡々と過ぎるが、時には衝突することも。
「カレーを食べながらボロ泣きするシーンはお気に入りです。男の人が情けなく泣くという感情の発露が好きなんです。そして、どんなにしんどい恋愛をしていても飯は食う、ってとても人間的ですよね」
デビューした2021年に「ヴァンパイアの朝食」を書いて以来、彼らの愛の形を見つめてきた。
「自分の中で4年間ずっと向き合ってきた作品。今までの作品の中でキャラクターたちに格別に愛着がある。それがようやく一冊になったので、皆さんに読んでほしいです」
きみじまかなた/1989年生まれ。東京都出身。2021年、「水平線は回転する」で第12回小説 野性時代 新人賞を受賞し、同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。他の著書に『夜がうたた寝してる間に』など。

