実は、この「時間予測モデル」は全国でも、南海トラフにだけ使われている独特のモデルだ。他の地域は全て「単純平均モデル」と呼ばれる別のモデルが使われている。南海トラフ地震の確率はこの「単純平均モデル」で算出すると20%程度となる。
各地域を比較する基準にもなる発生確率の算出に、別の予測モデルが使われているのは、素人でも違和感がある。地震学者から「不公平」とか「指標はそろえるべき」との意見が出るのは当然だった。
だが、公表前の政策委員会側では「時間予測モデル」を使わないと、発生確率が20%に下がってしまうことが問題視された。そして「防災の予算獲得に影響がある」「(確率が下がると)安全だという誤ったメッセージになる」といった趣旨の意見が強く出て、最終的に「80%」という確率のみが公表されていたのだ。
問題だらけの時間予測モデル
「時間予測モデル」が信頼できるモデルなら、80%という数字にも意味があるだろう。しかし、私が取材すると「時間予測モデル」は、そもそも問題だらけの計算だった。
代表的な問題の一つはデータが少なすぎる点だ。駿河湾から日向灘沖まで、東西700キロに及ぶ南海トラフで発生する巨大地震の確率を、高知県・室津港の1地点の、たった3回の地震の記録で予測しているのだ。
もう一つの問題は、その過去の地震の記録が正確性に乏しいことだ。
〈この続きでは、南海トラフ地震の発生確率が見直された背景をさらに深掘りしています〉
※本記事の全文(約8400字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年2月号に掲載されています(小沢慧一「南海トラフ地震『おかしな予測』の犯人」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・広報検討部会の議事録の中身
・「科学者としてやっていない」
・確率のしがらみから抜け出せ
