家族の未来をデザインする前向き終活の始め方

終活を、死後の事務手続きのための情報整理と思っていないでしょうか。これからの終活は人生を見つめ直し、自分は何を大切にしてきたのか、そして日々をどう生きたいのかを考える「未来のデザイン」です。有識者へのインタビューを通じて、終活を進めるためのヒントを探りました。

家族の絆を結び直す終活の鍵は「縁ディングノート」にあり!

自分に万一のことが起きても、家族が困らないように準備をしておきたい――そんな考えとともに、終活という言葉が広がっています。しかし、何から始めるべきでしょうか。終活・相続コンサルタントの一橋香織さんに話を聞きました。

エンディングノートは自分の「取扱説明書」

【この人に聞きました!】
終活・相続コンサルタント
一橋香織さん(ひとつばし・かおり)
外資系金融機関を経て、ファイナンシャル・プランナーに転身。19年で7,000件以上の相続相談の実績を有する。一般社団法人縁ディングノートプランニング協会代表理事。講演・メディア出演多数。監修書に『終活・相続の便利帖』(日本法令)など。

「終活といっても、うちは家族の仲が良いから、相続トラブルとは無縁だろう」

 そう確信している家庭こそ危ないと、終活・相続コンサルタントの一橋香織さんは警鐘を鳴らす。

「かつての日本では長男が全財産を継ぐ代わりに、家族を扶養する義務を負っていました。その後の民法改正で個人の権利が重視されるようになり、兄弟姉妹間の相続は平等になりましたが、実際の相続の現場では家を継ぐ長子や親の介護に貢献した子に財産が偏ることはままあります。『法律では平等だから』といって画一的に対応するのは難しいのです。家族の気持ちに目を向けず、手続きを進めた結果、争族が生まれます」

 この溝を埋めるツールとして、一橋さんはエンディングノートならぬ「縁ディングノート」の戦略的活用を提案する。一般的にエンディングノートといえば、「死」への重苦しいイメージがつきまとう。そこで一橋さんはエンディング(終わり)ではなく、縁(えん)を結び直す「縁ディングノート」とその名称を再定義する。

「ノートを書くことは、自分の『取扱説明書(トリセツ)』を作ることと同義です。自分が何を好み、何を嫌うのか。延命治療を望むか否か。これらをきちんと書き記すことは、残された家族が判断に迷わないための道標になります。また、人生を振り返るノートは自分史としても活用できます。自分がどのような縁に支えられてきたかを再確認でき、結果として周囲への感謝が生まれるのです」

あえてリビングでノートを広げて親子の会話のきっかけを作る

 では、実際にどのように書き進めるべきか。多くのシニア層は、家族に迷惑をかけまいと一人でノートを書き進めがちだが、一橋さんは「あえてリビングでノートを広げてみて。ノートを介して親子で会話が生まれます」と助言する。

「実際に、親子でノートを書いたおかげで『カレーが好きだと思っていた我が子だが、実はカレーが苦手だった』と、思い込みが解消されたという方もいらっしゃいますよ。思い出の振り返りから価値観の共有まで、普段はできないコミュニケーションが生まれます。ノートを書くというプロセス自体が、家族の絆を深める役割を果たします」

「遺言+縁ディングノート」が相続の最適解

 また、資産承継の実務においてもエンディングノートは活躍する。

「遺言は資産承継における法的効力を有したものであり、形式の要件なども決まっています。対してエンディングノートは自分の思いや希望をつづったものであり、法的な効力はありません。そのぶん、何をどう書くかは自由。終活においてはどちらも重要な役割を果たします。私はいつも、『遺言+縁ディングノートで準備しよう』とお話ししています」

 なぜ、遺言に加えてエンディングノートを用意しておくことが望ましいのか。一橋さんは「遺言は『誰に何を渡すか』という意思を示すものですが、それだけでは感情的な納得感を得にくい場合があるからです」と説明する。

「例えば、先祖代々の土地を守るために長男へ多く財産を残すという遺言があったとします。弟からすれば不平等に映るでしょう。そこに『家を守ってほしいから苦渋の決断をしたが二人とも同じように愛している』という親の肉筆のメッセージがあれば、受け手の思いは変わります。遺言で結論を示し、ノートで感情を補完する。この両輪が揃って初めて、争いを防ぐことができるのです」

人生の集大成としての「遺贈寄付」

 また近年では、家族への相続に加え、財産の一部をNGOなどの社会貢献団体に寄付する「遺贈寄付」への関心が高まっている。「生きた証を社会に残したい」という思いの現れであり、人生の集大成として大きな意義がある。

「遺贈寄付を確実に実現するには、遺言などの準備が必要です。また、どんな寄付でも受け入れてもらえるわけではありません。例えば家や農地などの不動産を寄付しようとしても、売却が難しいなどの理由で断られるケースもあります。あらかじめ寄付先候補の団体に相談しておくとスムーズです。加えて、どうしてその団体を応援したいと思ったのか、寄付に込めた思いをエンディングノートに記しておくこともお勧めします。ご本人の言葉があると、残されたご家族が寄付を受け止めやすくなります」と一橋さん。

「終活を、家族や周囲の人々との縁を結び直し、生き方を再設計する前向きな活動とするために、ぜひエンディングノートを手に取ってみてください」

早めの住み替えで安心を確保する手段も

 身体が不自由になったり、認知症が進行したりした場合にどのように医療や介護を受けたいのかも、終活で考えておくべき項目の一つだ。自宅での介護を希望する人が多いが、家族への負担や独居のリスクを直視したとき、自宅だけが唯一の正解とは限らない。

 近年、高齢者施設のあり方やサービスは多様化しており、「施設=不自由な場所」というイメージは過去のものになりつつある。元気な人向けの施設としては自立型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などが候補になる。

 これらは居室が広く、キッチンや浴室が完備されるなど、プライバシーが保たれたマンションに近いつくりになっていることが多い。見守りサービスや緊急時の対応など「万一の安心」を確保できる点は大きな魅力だろう。選択肢が広がった今こそ、自分のライフスタイルに合った環境を主体的に「選ぶ」ことが必要となっている。

出典元

文藝春秋

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