『ウォッチメン』を歴史的に位置づけたのちに、作品としてこう評価する。
〈『ウォッチメン』は文学としては成功しているが、哲学や神学としては失敗している。ムーアはユウェナリスの問い「誰が見張り人を見張るのか」に答えず、ただ問うことしかできない。なぜならムーアの神なき世界では、この問いは「無限後退」、すなわち同じ問いの無限の繰り返しを生むからだ。(略)彼はキリストを拒絶し、反キリストに対しては曖昧な態度を取りつつ、宿命論に身を委ねるのである〉
そしてこう付言する。
〈『ウォッチメン』で最後に触れておくべき細部がある。(略)世界の終末が迫るにつれ、読者はスーパーヒーロー漫画を読まなくなり、海賊漫画を求めるようになる。特に『黒い船の物語』と題されたシリーズが人気を博す〉
「イムが反キリストなら、ルフィはキリストだ」
こう前置きした上で、いよいよ『ワンピース』が登場する。
〈『ウォッチメン』が完結してから4年後、冷戦も終結した。父ブッシュ大統領は大国間の衝突のない「新世界秩序」の始まりを宣言した。後継者のビル・クリントンは軍縮で得た「平和の配当」で財政赤字解消に努め、貿易協定でグローバル化を加速させた。そうした平穏な時代に、暴れん坊のような尾田栄一郎が『ワンピース(ONE PIECE)』を執筆し始めた。この漫画はそれから28年で1100話を超えて、今やっと「最終章」に入っている〉
ティール氏は、『ワンピース』をこの上なく高く評価する。
〈数百話にわたり断片的に明かされる真実が、反キリストの壮大な歴史の流れとして結実していく様は、すべての決定的要素で『ウォッチメン』を凌駕している〉
そしてこう断言するのだ。
〈(世界政府の独裁者)イムが反キリストなら、ルフィはキリストだ〉
「『ワンピース』のルフィはキリストだ」(「世界の終わりへの航海 後編」)の全文は、2月10日発売の月刊「文藝春秋」3月号、および月刊「文藝春秋」のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されている。
出典元
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作二作全文掲載 鳥山まこと「時の家」 畠山丑雄「叫び」/忖度なき提言 高市首相の経済政策/緊急座談会 暴君トランプの新帝国主義
2026年3月号
2026年2月10日 発売
1650円(税込)

