「文藝春秋」2026年2月号に「ピーター・ティールのワンピース論」(ピーター・ティール&サム・ウルフ著、会田弘継訳「世界の終わりへの航海 前編」)を掲載したところ、大きな反響を呼んだ。
PayPalの共同創業者にして“シリコンバレーのドン”の異名をもち、2016年の米大統領選でいち早くトランプ支持を表明し、第2次トランプ政権のヴァンス副大統領就任にも深く関与したと言われるピーター・ティール氏が、博覧強記の神学的・哲学的教養を“全開”にして、「キリストと反キリスト(世界支配)と科学技術」という壮大なテーマに挑んでいるからだ。
掲載のきっかけが仏の歴史人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッド氏だったことも注目を集めた(詳細は「『ピーター・ティールのワンピース論』掲載を可能にした、エマニュエル・トッド氏の関心と翻訳者・会田弘継氏の尽力」)。
「『ウォッチメン』は哲学や神学としては失敗」
2月号掲載の「前編」では、「知は力なり」で知られるフランシス・ベーコンのユートピア小説『ニュー・アトランティス』(1627年)とジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』(1726年)が取り上げられたが、3月号掲載の「後編」では、まずアラン・ムーアのスーパーヒーロー漫画『ウォッチメン』(1986~1987年)が論じられる。
〈ムーアのスーパーヒーローたちは2つの意味で「見張り人(ウォッチメン)」である。世界を見守る者であり、人類最後の時を生きる者だ。(略)物語の中で市民の抗議者たちは「誰が見張り人を見張るのか」と、古代ローマの風刺詩人ユウェナリスの言葉を引用して叫ぶ〉
〈ムーアの偉大な功績は、ベーコンの科学擁護の反キリスト観を現代版に改訂したことだ。核兵器が存在する現代世界ではハリウッドでディストピアSFが量産され、もはやベーコン的科学進歩が「平和と安全」をもたらすとは信じられなくなった。(略)ムーアは対比されるのを嫌がるかもしれないが、ドイツの法哲学者カール・シュミットと同じことを言っている。シュミットは新約聖書のパウロ書簡に執着し、「人類」が政治プロジェクトの下に団結できることは疑っていた。「なぜなら人類には敵が存在しないからだ。少なくともこの惑星上には」と言っている〉
