どこか“奇妙な納得感”を覚えるワケ
本作には「ボディ・ホラー」というキャッチコピーがつけられている。私はそれを知り、デミ・ムーア主演の『サブスタンス』(24年)を思い出してしまった。『遊星からの物体X』(82年)も本作からあまり離れていないのではないかという印象を持つ。それよりもプラトンの『饗宴』に出てくるアンドロギュノスのイメージの影響は大きい。
アンドロは男性を意味し、ギュノスは女性を意味する。本来、男性と女性、そしてアンドロギュノス(両性具有)がいたという、アリストパネスが語ったとされる演説だ。かつては男女がくっついた完全な形としてアンドロギュノスが存在していた。しかし、その傲慢さをいさめるために、神はアンドロギュノスを真っ二つに切断してしまった。そしていずれの半身も、もう半身の異性を追い求めるようになったのだという。
このことが本作のモチーフになっていることは、謎の泉が描写される経過のなかで明らかだろう。
もう一点、本作を観ながら連想したのが、諸星大二郎の『生物都市』だった。すべての機械と融合した老人が、「もう腰も痛くない。楽な世界だ」と独白する場面を、このカップルの行く末を想像したときに思い描いてしまった。次に何が起こるのか、遥かに想像力を超えてくる。最後の場面は秀逸だ。
カップルを演じたデイヴ・フランコとアリソン・ブリーは実の夫婦と知り、さもありなんと納得。
かじお・しんじ 1947年、熊本県生まれ。作家。71年に『美亜へ贈る真珠』でデビューして以来、短編中心に活動。代表作に『黄泉がえり』『サラマンダー殲滅』「エマノン」シリーズなど。来年2月に『もののけエマノン』、3月に『おさご幻奇譚』が刊行予定。
INTRODUCTION
サンダンス映画祭のワールドプレミア上映で大反響を呼び、気鋭の配給会社NEONが激しい争奪戦の末に米国配給権を獲得したことで話題となったホラー。監督はオーストラリア出身で、A24製作の次回作を手がける新人監督マイケル・シャンクス。主人公のティムを『グランド・イリュージョン』(13年)、『愛はステロイド』(24年)のデイヴ・フランコ、ミリーを『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20年)、『ホース・ガール』(20年)のアリソン・ブリーが演じる。
STORY
長年連れ添ってきたミュージシャン志望のティムと小学校教師のミリーは、住み慣れた都会を離れ、田舎の一軒家に移り住む。ところが森で道に迷い、不気味な地下洞窟で一夜を過ごした直後から、二人の穏やかな日常が暗転する。ティムは突然意識が混濁し、身体が勝手に暴走する奇妙な症状に悩まされ、気持ちがすれ違いがちだったミリーとの関係が危うく揺らぎはじめる。やがて、その異変はミリーの身にも及ぶ。目に見えない磁力に引き寄せられるかのように互いが肉体を求め合う現象は、二人が一緒に育んできた愛と人生すべてを侵蝕していく……。
STAFF & CAST
監督・脚本:マイケル・シャンクス/出演:アリソン・ブリー、デイヴ・フランコ/2025年/アメリカ・オーストラリア/101分/配給:キノフィルムズ/©2025 Project Foxtrot, LLC

