「おひとりさま」時代の到来
思いを託す準備を

少子高齢化と核家族化が進み、「おひとりさま」やその予備軍の世帯は増加している。何かあったときだれに頼り、そして財産はどう引き継げばいいのか。終活・相続コンサルタントの一橋香織氏に現代の終活事情を聞いた。

頼れる親族がいない三つの「孤立」タイプ

終活・相続コンサルタント
一橋香織
(ひとつばし・かおり)
外資系金融機関を経て、ファイナンシャル・プランナーに転身。19年で7,000件以上の相続相談の実績を有する。一般社団法人縁ディングノートプランニング協会代表理事。講演・メディア出演多数。監修書に『終活・相続の便利帖』(日本法令)など。

 核家族化が進み家族が離れて暮らすことが当たり前になった今、「おひとりさま」になった際の対応は、どの家族にとっても身近なテーマとなっている。

「厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査によれば、65歳以上の人がいる全世帯のうち独居高齢者は約3割。そこに夫婦二人暮らし、あるいは親と未婚の子のみという『おひとりさま予備軍』を加えると、その割合は80%を超えます」

 終活・相続コンサルタントとして、多くの終活相談に乗ってきた一橋香織氏はこう説明する。

「近所に頼れる親族がいないのは核家族化が進んだ都市部の問題と考えられがちですが、地方都市であっても、実はおひとりさま問題は広がっています。私が暮らす新潟県内でも向こう三軒両隣のほとんどが独居高齢者、あるいは老夫婦のみという状況は珍しくありません。これからは、だれもが人生のどこかで『ひとりで過ごす』段階を経験していくことになると思います」

 一橋氏が学長を務める「おひとりさま相続大学®」では、こうした現代の「おひとりさま」を以下の3タイプに分類している。

出所:「おひとりさま相続大学®」

 頼れる人が近くにいないと、病気やけがで倒れるなどの緊急時に本人の意思を確認できず、行政や医療機関が対応に苦慮することになる。一橋氏は「もしも病気や事故で倒れて入院すると、それまでは難なくこなしていた身の回りのことや家のことなどができなくなってしまうかもしれません。さらに意思の疎通が難しい状況になれば、希望を代弁する人がいないのは大きな問題です。自分自身の暮らしと尊厳を守るために終活を始めてほしいですね」と助言する。

エンディングノートを自分の取扱説明書にする

 死後事務委任や遺言の準備など、実はおひとりさまの終活でやるべきことは多い。なかでも一橋氏が推奨するのがエンディングノートの活用だ。エンディングノートは死ぬための準備と捉えられがちだが、一橋氏は「エンディング」を「縁(えん)」と読み替えた「縁ディングノート」として普及活動を行っている。

「ノートは、自分は何を希望し、どう扱われたくないかを記しておく『自分の取扱説明書(トリセツ)』と考えていただきたいですね。その方がどんな医療や介護を望み、どんな価値観を大切にしているのかを整理したノートは、終活を進めるうえでの実用的なツールとして大いに役立ちます」

 実際に一橋氏が終活をサポートした90代の女性は、「おひとりさま」であったがノートのおかげで、その人らしい最期を彩ることができたという。ノートに「葬儀ではルイ・アームストロングの曲を生演奏で流してほしい」という希望が記されていたため、死後事務を受任していた一橋氏らがピアノ奏者を手配。友人とともに明るく見送ることができたという。具体的な指針があったおかげで、事務的な処理に終わらず、その人らしい葬儀を取り計らうことができたのだ。

広がる「遺贈寄付」
縁を見つめ直すきっかけに

 また、エンディングノートとあわせて一橋氏は遺言の準備も勧めている。「おひとりさま」であれば財産の引き継ぎ方を指示する遺言は不要にも思えるが、相続人がいない場合、故人の遺産は最終的に国のものとなる。

「せっかく自分が築いてきた財産だからこそ、死後にも自分自身が最善だと考えるお金の使い道を選びたい」。こう考える人たちから、遺言によって公益団体などに財産の一部を寄付する「遺贈寄付」が注目されている。

 遺贈寄付は死後の寄付となるため、将来の老後資金や生活費を守ることを心配せずに寄付が可能。自身の人生観や経験に基づいた寄付先を自由に選べる。

 ただスムーズな遺贈寄付には準備が必要となる。一橋氏は「不動産や有価証券など寄付したい財産によっては、団体による受け入れが難しい場合もあります。せっかくの思いを無駄にしないためにも、事前に遺贈寄付の候補団体に相談をしておきましょう」とアドバイスする。また相続人がいる場合でも、エンディングノートに寄付に込めた思いを記しておけば、遺族が受け入れやすくなる。

「何かあったときに、誰かに『頼る』ことが難しくなっている時代。だからこそ、自分で決めて『託す』ことが、ますます大切になっています。その点で、エンディングノートを書くことは、これまでの人生を棚卸しして、社会や周囲との縁を見つめ直す作業になるはずです」とほほえむ。

 早めの準備が、安心への第一歩といえそうだ。