「ありがとう」のバトンを遺贈寄付で未来へつなぐ
死後に財産の一部を社会貢献のために寄付する「遺贈寄付」が、少しずつ広がりを見せている。遺贈寄付の普及・啓発に努める日本承継寄付協会代表理事の三浦美樹さんに、日本における遺贈寄付の現状を聞いた。
認知度は6割超に
誤解の解消が課題
三浦美樹(みうら・みき)さん
2011年に司法書士事務所を開業し、相続専門の司法書士として年に2,000件を超える相談を受ける。2019年に日本承継寄付協会を設立し、日本における遺贈寄付文化創造に尽力。共著書に『相続に係る専門家のための遺贈寄付の実務』(税務経理協会)。
──欧米では遺贈寄付が盛んと聞きますが、日本ではどの程度浸透してきているのでしょうか。
三浦 遺贈寄付が浸透しているイギリスでは、年間の遺贈寄付額が9000億円に上ると言われます。日本はそれに比べると圧倒的に小規模ですが、これからの可能性はあります。日本で相続のタイミングで動く資産は年間約50兆円に上ると推計されています。このうちわずか1%でも遺贈寄付として社会貢献へまわすことができれば、社会に大きなインパクトを与えられるはず。私が代表理事を務める日本承継寄付協会では2020年から「遺贈寄付に関する実態調査」(以下、同調査)を実施し、遺贈寄付に対する意識や行動の変化を追っています。最新の2025年度調査によると、遺贈寄付の認知度は直近2年間で10.5ポイント上昇し、全体で63.8%と6割を超えました。特に70代では84.5%と高い数字を記録しています。
──認知度が6割を超えているのですね。
三浦 遺贈寄付という言葉は広がっていますが、内容の理解はこれからです。同調査では「具体的な内容まで理解している」と答えた人は全体のわずか7.4%に留まっています。「遺贈寄付はお金持ちがするもの」「今は寄付するほどの余裕がない」という誤った認識から「自分には関係のない慈善行為」と遠ざけている方がまだ多いのです。遺贈寄付は、誰にでも実現できる自由な寄付だと知ってほしいですね。
一人ひとりに合った寄付のあり方を選べる
──通常の寄付に比べて、遺贈寄付はどのような特徴がありますか。
三浦 遺贈寄付は何を、だれに、どれだけ寄付するかにおいて決まりはありません。小さな金額で寄付できますし、亡くなった後に残ったお金から寄付をするので、老後資金を減らす心配もありません。一人ひとりに合ったやり方を選択できる、柔らかい寄付の形です。
──資産がそれほど多くない場合や、財産を引き継がせたい家族がいる場合でも、遺贈寄付はできますか。
三浦 遺贈寄付は富裕層が行う社会貢献の一つと考えられがちですが、実は保有資産の多寡は遺贈寄付にはほとんど関係がありません。実際に同調査でも保有資産「100万円~5000万円未満」の層は、過半数が遺贈寄付に前向きな傾向を見せています。ごく普通に働いて資産を築いたうえで、少しでも誰かの役に立ちたい。こう考えている人こそが、遺贈寄付の裾野を広げていく中心になっています。
「家族に財産の大半を引き継ぎ、10万円だけを寄付する」という方もいれば、数百万円を母校やふるさとの自治体に託す方もいます。
──財産を引き継ぐ相手がいない「おひとりさま」にとって、遺贈寄付はどのような選択肢になるのでしょうか。
三浦 おひとりさまの場合、遺言書がなければその遺産は最終的に国庫に帰属します。単にお金の行き先を決めるだけでなく、自分が共感する活動に「意思あるお金」として託すことで、自分の人生を肯定したい。そう願う方にとって、遺贈寄付は人生の締めくくりに自分の意思を示す手段となっています。
遺言書作成のハードル
越える後押しを
──現在の日本では、遺言で遺贈寄付の意思を示す方法が一般的です。遺言書の作成はハードルが高いという方に向けて、どのような支援があるのでしょうか。
三浦 同調査では、遺贈寄付を検討している方のうち74.8%が遺言書を作成する必要性を感じながらも作成していません。そこで当協会では、一定額以上の遺贈寄付の文言を含めることを条件に、遺言書の作成費用として最大10万円を助成する「フリーウィルズキャンペーン」を毎年実施してきました。2025年度キャンペーンで作成予定の遺言書による寄付総額は58億円を超える見込みです。2026年度は9月から同じようにキャンペーンを実施予定ですので、遺言書の作成を検討している方にぜひ活用していただきたいですね(2026年度からは公益財団法人Will for Japanで実施予定)。遺贈寄付が、日本の終活において「当たり前の選択肢」となるよう、今後も力を尽くしていきます。
──遺贈寄付は決断から実行までの間に数十年かかる場合もあるため、寄付先にお金を託しても大丈夫なのか悩む方が少なくありません。寄付先選びのアドバイスをお願いします。
三浦 公益法人には厳しい会計ルールがあり、ウェブサイトなどで活動内容や寄付金の使い道を公開し、透明性の高い運営に努めています。まずは正しい情報を知っていただくことが、不安解消に役立ちます。実際、過去に寄付をした経験がある人は、各団体の活動実態をよく分かっているためか、遺贈寄付にも前向きな傾向があります。もしも寄付先に不安がある場合は、一度少額で寄付をして団体側とコミュニケーションを取り、活動報告などに目を通してみてください。そのうえで「ここになら託せる」と納得感を持つことが大切です。
人生を振り返り満足感をもたらす
──遺言書を作成し遺贈寄付の意思を示した方は、どのような感想を抱くことが多いですか。
三浦 実際に遺贈寄付を決めた方にお伺いすると、やはり満足したと言っていただくことが多いですね。同調査では寄付経験者や遺贈寄付を検討している層ほど孤独を感じにくく、人生の満足度が高いという結果が出ています。もともと充実した毎日を過ごしている方が寄付をしている側面もありますが、これまでの人生を振り返り、「ありがとう」という感謝の気持ちを込めて未来へバトンをつなぐ──遺贈寄付に至るまでのこの一連のプロセスが、誇りと満足感をもたらしてくれるのではないでしょうか。