人生の折り返し地点で見つけたもの
離婚問題やパートナーシップの複雑さを受け止め、中年以降の再生を模索する内容は、ベルイマンの『ある結婚の風景』(74年)の系譜にある人間探究とも言える。人生の折り返し地点で新たな情熱を見つけ、魅力を回復させることで愛の再燃の可能性が生まれる展開は、『ラブ・アゲイン』(11年)を彷彿させる部分もある。
クーパーの演出は都市空間を軽やかに動き回りながら、親密で人肌の温度を感じさせるものだ。長回しを多用し、感情の揺れを丁寧に追う。彼自身が演じるアレックスの友人ボールズも興味深い存在で、登場早々にオーツミルクを床にぶちまけるなど道化的なギャグで作品にリズムを与える。かつて主演を務めた「ハングオーバー!」シリーズなどを思わせる喜劇性への回帰とも言える。クイーン&デヴィッド・ボウイのヒット曲「アンダー・プレッシャー」のユニークな使い方も印象的だ。さらに実在の大物コメディアン、デイヴ・アテルが本人役で出演し、ニューヨークのコメディシーンのリアリティを強めている。
人生のほころびや再生の瞬間を繊細に掬い上げ、静かに生命力を肯定するクーパー監督の真骨頂にして新境地。中年の危機をユーモアと痛みの両面から描きながら、「生きるとは何か」をそっと問いかける快作だ。
もり・なおと 映画評論家。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』『ゼロ年代+の映画』などがある。YouTube『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
INTRODUCTION
『アリー/スター誕生』(18年)、『マエストロ:その音楽と愛と』(23年)で監督としても高く評価されるブラッドリー・クーパーが、監督、脚本、製作を手掛け、自らも出演する長編監督3作目。離婚危機の中でスタンダップコメディの世界に飛び込み、新しい人生を切り拓いていく主人公のアレックスをウィル・アーネット、長年連れ添った妻のテスをローラ・ダーンが演じる。アーネットの友人の実話を題材に舞台をニューヨークに置き換え、今を生きる中年夫婦の愛の終わりと、そこから新たに始まる物語を繊細に描く。
STORY
結婚生活の終わりを決めたアレックスとテスの夫婦。友人の前で別れを悟られないよう振る舞うが心の揺れは隠せない。失意のアレックスは偶然飛び込んだコメディクラブでいきなり舞台に立つ。夫婦の赤裸々な関係を笑いに変えていくなかでアレックスが新しい生きがいを見つける一方、元バレーボール選手のテスにはオリンピック代表コーチのオファーが舞い込む。結婚生活の中で見失った思いに少しずつ向き合うふたりが見つけた“思いがけない”人生とは──。
STAFF & CAST
監督:ブラッドリー・クーパー/出演:ウィル・アーネット、ローラ・ダーン、アンドラ・デイ、ブラッドリー・クーパー、クリスティーン・エバーソール、キアラン・ハインズ/2025年/アメリカ/120分/配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン/©2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

