3万年以上前、海を渡ってやって来た日本人の祖先。それまで、無人の野だった日本へ、対馬、北海道、沖縄という3つのルートから、別々に足を踏み入れた。

 そのなかで、最も困難だったのが沖縄ルートといわれる。なにしろ世界最大の海流のひとつである黒潮を越え、時に100~200kmに及ぶ海峡をいくつも渡る航海が必要だったのだ。

海部陽介氏(国立科学博物館)と対談した満島ひかりさん ©深野未季/文藝春秋
3万8千年前ころの日本列島への3つの渡来ルート。最も困難だったのが沖縄ルートだ ©「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」

 祖先たちはいかにして、台湾から沖縄への大航海を成功させたのか。「3万年以上前の祖先たちの海への挑戦をできる限り詳細に解き明かしたい」、そんな思いで、太古の大航海の再現に挑戦するのが『3万年前の航海 徹底再現プロジェクト』だ。

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 国立科学博物館、人類史研究グループ長の海部陽介氏がプロジェクト代表となり、来年、台湾から与那国島への航海を実施することを最終目標に、草や竹、そして丸木の舟で実証実験を続けている。

 去年Eテレの番組で海部氏と話をして、このプロジェクトに「ロマンを感じた」という女優の満島ひかりさん。来年の台湾から与那国島への本番航海へ準備を進める、海部氏と再会。3万年前の最初の日本人たちの謎について対談を行った。

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「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」リーダーの海部陽介氏 ©深野未季/文藝春秋

先人たちに思いを馳せている姿にロマンを感じた

海部 この『3万年前の航海 徹底再現プロジェクト』、満島さんにとても関心を持ってもらって、本当にうれしいんですけど、どんなところに魅力を感じられていますか。

満島 ロマンがあるなあと私は思って。去年、対談をしたとき海部先生がおっしゃったんですけど、職業柄いつもは確実に研究成果を出せたものを発表する。でも今回は、失敗や冒険も含めて研究の過程をたくさん見せながら、プロジェクトを進めているというのがすごく面白いなと思いました。

 黒潮の中を舟で渡る。島と島を渡る。そういった、先人たちに思いを馳せている姿は、冒険物語を聞いているようで興味を持ちました。

「天気」ではなく「海気」を読む

海部 満島さんは島で育って、海には慣れ親しんでいると聞いています。

満島 そうですね。東京で暮らしているより海や空が身近で。私たちはまだ全然できないんですけど、おばあちゃんたちは「ああ、2日後は雨になるよ」とか「今年の緑の色はちょっと違うねえ」とか空を見たり、匂いを嗅いだだけで、話したり。

 プロジェクトの航海で舟を漕ぐ監督さんのインタビューを読んだんですけど、「海気を読む」と書いてあって、それがすごく面白くて。

海部 そうですね。「天気」じゃなくて「海気」なんですよね。

満島 海の気を読むというのは……羨ましいなと思います。都会に暮らしているとなかなか出来ないですけど、本当はもっと雨のことを知りたいし、海のことを知りたい。雲の流れが変わると何が起こるかとか、もっと自然と触れていたいと思うんです。そういった漠然としたものに海部先生が挑戦していることにやっぱりロマンを感じます。