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「そんな舟でこの海を渡れるわけないでしょ」

海部 僕らのプロジェクトの特徴は、「祖先たちがやったことを自分たちでやってみる」ということです。通常だと遺跡を掘って、そこから出てくる証拠で研究する、それが王道です。でもそこからちょっとはみ出して、自分たちがやってみる。祖先たちもやっぱり人間なわけですから「人間に迫れる」、そういう実感がとてもありますね。

満島 それはすごく思いました。先生たちが挑戦する台湾から与那国までの航海は下手したら70時間とかずっと舟を漕いでいくわけじゃないですか。海の上を渡っていくためにこういうふうに筋肉を使わなきゃいけないんだとか、3万年前の人の身体の使い方にまで思いを馳せている感じがします。

海部 「そんな舟でこの海を渡れるわけないでしょ」って言われることがあるんです。「無茶なこと止めなさい」って。でも祖先たちは実際に来ているので、それが事実なんです。

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海部氏のプロジェクトにロマンを感じたという満島さん ©深野未季/文藝春秋
一昨年の与那国島~西表島でのテスト航海では草の舟が試された ©「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」
琉球列島と台湾の主な旧石器時代遺跡と現在の黒潮の流路。琉球列島では3万年前後の遺跡が次々に見つかっているのだ 背景地図:九州大学 菅浩伸 based on Gebco 08 Grid

3万年前には地図もGPSもスマホもない

満島 舟で渡っていった3万年前の祖先たちの気持ちになって、シナリオを組み立てているというのも面白いなと思いました。

海部 忘れちゃいけない大事なポイントは、3万年前には地図は存在しないということですね。海流についての知識も乏しい。水平線の向こうにはこんな島がある……なんて知らないわけです。なにしろ初めてですからね。島を発見した。でも、そこへ行って何が起こるかもわからないわけです。どんな島かもわからないし、行けるのかどうかもわからないわけですけど、そこへ旅立っていった人たちがいる。

満島 プロジェクトの航海では星を読んだりもするんですよね。

海部 それも大事で3万年前と同じ条件ですから、GPS、時計、スマホ……そういうものは持たないで行きます。当然3万年前と同じで、漕ぎ手は途中で交代はしちゃいけないわけですね。

 それから、これは冒険ではありません。現在の冒険というのは誰が行ってもいいから、たいていベテランの男の人が行くわけですけど、3万年前は男だけで旅立ったらダメなわけですね。

満島 ああ、そうです。島に着いたら子孫を作らなきゃいけないですもんね。

海部 航海の先の未来が待っていますので、男だけではダメなんです。女性も一緒に行く。そういうことをトータルで考えて、祖先たちの移住がどうだったのかを知りたいんですね。