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私たちはなぜ、ベイスターズ・山﨑康晃を信じられるのだろうか

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/13
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山﨑康晃は誰よりも「ヤスアキ」を信じてる

 ももクロのライブのオープニング。『overture』というテーマソングが会場を流れる。観客は一気にヒートアップして、彼女たちの名前を叫ぶ。舞台袖でそれを聞きながら、彼女たちの表情がみるみる変わる。そして何万もの歓声の中へと飛び込んで行く。ヤスアキのゾンビネーションも同じだ。2017年の日本シリーズ、ハマスタ第5戦。負けたら終わりのこの試合で、8回ツーアウト1、2塁、バッター柳田で流れたゾンビネーションが忘れられない。もうダメかもしれないという空気を切り裂くあのリズム。「え? 今?」一瞬たじろいで、でもすぐさまタオルを掲げるファンたち。「ヤスアキだ」「ヤスアキ」。何万の人たちがそれを信じた。「ヤスアキなら大丈夫」と信じた。

 個人のインタビューでその人自身のことをたずねるといつも「全然自信がなくて」と答えるのに、「ももクロ」に対しては常にものすごい自信を持っている。それは彼女たち自身が何よりももクロのファンであり、ももクロを信じているから。だから周りにいる私たちも信じられる、ついていきたいと願う。山﨑康晃は、たとえば大谷翔平投手のような恵まれた身体や天賦の才でのし上がってきたタイプではない。だけど山﨑康晃もヤスアキを誰よりも信じていて、誰よりもヤスアキファンなんだと思う。そのために自分だけのボールと、自分だけの仕事場と、自分だけのメンタリティを確立した。だって、一番のファンである自分は裏切れない。そんな山﨑康晃だから私たちは、信じられるのだ。

山﨑康晃はヤスアキを誰よりも信じていて、誰よりもヤスアキファンなんだと思う ©文藝春秋

小さな大魔神と笑顔の天下

「プロ初セーブのお立ち台でヤスアキが『小さな大魔神になります』って言ったとき、俺ひっくり返ったよ」と村瀬さ……いやベイスターズをよく知る友人は言った。ルーキーが、今まで誰も解くことができなかった大魔神の呪縛を、いとも容易く解いてしまったのだ。しかも満面の笑顔で。「普通そんなことおっかなくて言えねえよ」。そうだ、2014年、悲願だった国立競技場で行われたライブで、リーダーの百田夏菜子さんはこんな決意を口にしていた。「私たちは天下を取りに来ました。それはアイドル界の天下でもなく、芸能界の天下でもありません。みんなに笑顔を届けるという部分で天下を取りたい」。

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 小さな大魔神と笑顔の天下。「言葉を持つ」者たちが、新しい時代を作っていく。旧世代の想像しうるちっぽけな世界観やお決まりのドラマを跳ね返すような力を持った人たち。何より自分自身を信じて生きている人たち。だから尚さら、私も信じたい。ペナントレースも残りわずか、ベイスターズは現在5位。残り試合は約20試合で、借金は10ほど、4位阪神とは2ゲーム差、3位巨人とは4ゲーム差。まだいける。そして文春野球では現在3位。1位ヤクルトとは32000ほどのヒット差。まだいける。試合がまだある限り、順位が確定しない限り、いける。

 確率や根拠なんて、圧倒的に奇想天外な現実を盛り立てる飾りでしかない。唯一「笑顔を見せない」マウンドでのヤスアキが、笑顔で胴上げされる瞬間が訪れることを、私は絶対にあきらめない。

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