インフレに負けない資産運用と次世代へつなぐ相続対策
インフレが定着する中で、どのように資産を守り、増やし、そして次世代に引き継いでいくべきか――。本特集では有識者のアドバイスを基にこれからの資産運用と相続対策のあり方について考えるとともに、その受け皿となる商品・サービスを紹介する。
【資産運用特集】
守るための資産運用が必須 不動産も分散投資の選択肢
ファイナンシャルプランナー圦本弘美(ゆりもとひろみ)氏に聞く
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
圦本弘美氏(ゆりもと・ひろみ)
資産運用・家計管理・住宅購入・保険見直しなど幅広いマネー相談に精通し、親身なアドバイスが好評。2013年、FP開業10周年を節目に日本初の本格的女性FP養成機関FPフローリストを設立。後進の育成と良質なFPサービスの普及にも尽力
折からの物価高に中東情勢の緊迫化による原油高や供給制約が重なり、インフレが深刻化している。そんな中、節約や家計の見直しに関する個人の相談が増えていると話すのがファイナンシャルプランナーの圦本弘美氏だ。「資産運用の相談は新NISA(少額投資非課税制度)の開始前後がピークで、いまは運用よりもまずは家計全般を見直し、無駄な支出を削減したいという意識が高まっているようです」と話す。
足元の物価高を受け、家計のムダを省き、支出を最適化することは非常に有意義なことだ。しかし、それだけではインフレを乗り越えられない可能性もある。支出を切り詰めて余裕資金を増やしても、インフレ下では現金の価値そのものが低下していくからだ。「インフレが定着したいま、資産を『増やす』ためだけでなく、『減らさない』ために、お金をより有利な場所に移す、つまり守るための資産運用が重要になっています」。守りの資産運用では、堅実さを最優先したい。そのためには、特定の銘柄や資産クラスに偏らない「投資銘柄の分散」、一度にまとめて投資しない「投資タイミングの分散」、そして短期的な値動きに一喜一憂せずじっくり構える「長期投資」の3つが肝心だ。
一方で近年、SNSなどを通じた投資詐欺の被害が増えており、特に金融知識に不安を抱える中高年が狙われるケースが少なくない。堅実な投資の第一歩としては、政府が個人の資産運用を後押しするために設けているNISAの活用が有力な選択肢になる。特に「つみたて投資枠」の対象商品は、金融庁が定める基準を満たした低コストの投資信託などが中心であり、始めやすいだろう。
資産を分散させる観点では、株式や投資信託といったペーパーアセットだけでなく、不動産のような実物資産をポートフォリオに加えることも有効だ。「不動産は、家賃収入という安定した収益が期待できます。株価のように日々大きく変動するものではなく、株価が半減したからといって家賃収入が突然半分になることもありません。その安定性は魅力といえるでしょう。ただし、多くの場合、銀行の借り入れを利用しますし、運営には管理費や税金などもかかります。単なる投資というよりは、一つの事業として取り組むべきかもしれません」と圦本氏は指摘する。昨今では、AIの活用で個人でも始めやすい不動産投資サービスを構築しつつ、同時に人による手厚いサポートを提供している会社もあるので検討してもいいだろう。
【資産運用特集】
財産を広く社会に役立てる 遺贈寄付という選択肢も
人生のエンディングに向けて避けて通れないのが相続の問題だ。「最近では40~60代の方が、ご自身の親御さんに関して相談するケースが増えています」と圦本氏は話す。例えば、親が認知症になった場合の実家や財産の管理についての相談などだ。ポイントとなるのは、資産を持つ本人の「判断能力の有無」。判断能力がないとみなされると、預金口座が事実上凍結され、自宅の売却などもできなくなる。「判断能力のある元気なうちに、自分の財産をどのように管理してほしいか、家族で話し合っておくことが重要です」。
相続対策は「相続税対策」「納税資金準備」「遺産分割協議」が3本柱だ。特に重要なのは、財産をどのように分割するかを話し合う遺産分割協議だろう。「争族」になることを防ぐためには、遺言書を作成しておきたい。「遺言書は単なる遺産分割の指示書ではありません。ご自身の気持ちや感謝の言葉を添えることで、家族の絆を守る大きな力になります」。
遺言書の作成には、公証役場で作成する「公正証書遺言」と、自分で書く「自筆証書遺言」がある。後者は手軽だが、形式の不備で無効になったり、発見されなかったりするリスクがある。ただし、法務局が自筆証書遺言を低コストで保管してくれる制度が2020年に始まり、より利用しやすくなった。
近年では相続人がいない場合や、社会に貢献したいと考える人々の間で、遺産をNPO法人などに寄付する「遺贈寄付」という選択肢が注目されている。
「大切に築いてこられた財産の一部を、より良い社会のために役立てるというのは、とても素敵な選択肢だと思います。生きているうちから少額でも寄付を始めてみるなど、関心のある分野を応援することも、豊かな人生につながるでしょう」と圦本氏は話す。
相続は、誰にでも訪れる人生の節目だ。財産の問題であると同時に、家族の想いをつなぐ大切なタイミングでもある。元気なうちにこそ、家族と向き合い、自らの意思を形にしておくこと。それが、残される人々への最大の贈り物となるはずだ。