東京新聞の望月衣塑子氏といえば、菅義偉官房長官に舌鋒鋭く質問を投げかける姿が有名だ。しかし、それ以前から精力的に取り組んでいたのが、日本企業の武器輸出の実態調査だった。「国境なき医師団」看護師として、過去8年間にイラク、シリアなど紛争地に17回も派遣された白川優子氏は、そんな望月氏の姿勢にかねがね共感を抱いていたという。永田町と紛争地。異なる分野の最前線に立つトップランナーによる特別対談。

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白川 ようやく憧れの望月さんにお会いすることができました。官房長官の会見で一躍、「ときの人」になりましたけど以前から望月さんが日本企業と武器輸出の関係を報じていることを知っていました。望月さんの著書『武器輸出と日本企業』も読んでいます。

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 武器を作る人がいる、売る人がいる、買う人がいる。だから、私が紛争地で日々接してきた血を流す人々がいる――。どうしても紛争地というと、日本人にとっては遠い話になりがちですが、「そうではないよ」ということを望月さんの著作からは感じます。知らず知らずのうちに、日本人も戦争と関わる可能性があるという危機意識を持って報道されている、とつねづね思っていました。

「国境なき医師団」看護師の白川優子さん

望月 ありがとうございます。以前から知っていただいていると聞いて恐縮ですが、私は、白川さんの著書『紛争地の看護師』を読んで、「国境なき医師団」の方がここまで戦争のど真ん中に入り込んでいるということを初めて知りました。「イスラム国」が支配していたシリアやイラク、そして内戦下の南スーダン。さらには、私が取材してきたような無人戦闘機、つまりは米軍のドローンが飛び交うようなイエメンでも活動されていますね。

米軍によるドローン攻撃被害の9割は民間人

白川 イエメンには、2012年から昨年まで計4回入っています。アルカイダなど武装組織が潜伏しているという山岳地帯がありまして、ドローン攻撃が行われていました。もちろん、ターゲットは武装組織です。でも病院に運ばれてくる多くは、一般市民でしたね。

望月 アメリカのあるメディアの調査によれば、ドローン攻撃の被害の9割が民間人で、目的とするテロリストは1割に過ぎなかったそうです。アメリカの軍法では、戦場で民間人が巻き添えになっても、テロリストを狙った“誤爆”であれば、裁かれることはありません。だから悲劇は繰り返される。白川さんは、その実態を自らの眼を通して書いてらっしゃる。

東京新聞社会部記者の望月衣塑子さん

日本の病院なら確実に助かっていた7歳の女の子

白川 今でも忘れられない7歳の女の子がいます。無人戦闘機の攻撃に遭い、お腹が傷ついて緊急手術をした。腸にも穴があいていましたが、手術自体は上手くいったんです。でも、血液が手に入らず、出血多量で亡くなってしまいました。日本の病院なら確実に助かっていた命です。

 私たちは本当にショックでした。特に外科医の先生が引きずっていました。手術は1時間ぐらいかかったんですけど、麻酔科医が「手術時間がもっと短ければ助かったのではないか」と外科医を少しなじったんですね。子供の体力を考え、30分ぐらいでいったん手術を終え、その続きは体力が戻った3日後にやるべきだった、と。

望月 限られた医療資源のなか、究極の選択をしなくてはならないんですね。それが命を左右する。でも、それぞれ状況は違うし、正解のない現場でしょうね。

白川 そうなんです。なじりあう先生たちの姿をみて、周囲の看護師たち含め、皆が悔しさで涙しました。彼らが悪いわけではない。では、誰が悪いのだろうか。考えても答えは出ませんが、紛争地の体験を重ねるうちに、個人を憎むのではなく、戦争に至る背景のようなものに意識が向かうようになりました。

2015年に医療活動を行ったイエメンにて