悔いなく生きるための「新・終活」実践術

「終活」という言葉が社会に定着する一方、その準備に踏み出す人は少ない。がんをきっかけに終活を実践し、多くの人の相談にも乗っているファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんに、前向きに終活を始めるための実践術を聞いた。

【この人に聞きました!】
黒田 尚子さん
くろだ・なおこ/1969年生まれ。CFP1級ファイナンシャルプランニング技能士・CNJ認定の乳がん体験者コーディネーター。1998年にFPとして独立後、個人に対するコンサルティング業務のかたわら、講演・講座の講師、執筆など幅広く活躍する。

──黒田さんは乳がんの告知を受けたことをきっかけに終活を始められたそうですね。終活を通じてどんな心境の変化がありましたか。

黒田 40歳で医師から「乳がんで5年生存率50%」と告げられたときは、真っ先に子どもの年齢を数えました。当時の子どもは5歳で、5年後でも10歳。幼い子を残してこの世を去ることになっても夫が困らないように、すぐにエンディングノートを買いに書店へ行きました。

 そうしてまっさらなノートを前にしたとき「私の人生って、いい人生だったのかな。どんなことを大切にしたかったのかな」という思いが浮かび、限りある時間で本当に大切にしたいものを考えるようになりました。エンディングノートは財産目録としても使えますが、それ以上に、人生を振り返るうえで極めて有効なツールだったと感じます。

 ノートを書き終わると安心感とともに、「残された人生を、自分らしく“生ききりたい”」という意欲が涌きあがりました。がんの治療法一つをとっても、提示されたものをただ受け入れるのではなく、自身の意思で納得して選び取りたいと主体的に変わりましたね。

──終活が、生き方を変える契機になったのですね。

黒田 そうですね。終活は死ぬ準備として語られがちですが、私にとっては「幸せな人生とは何か」に気付き、悔いなく生きるためのスタートとなりました。よく「いつから終活を始めるといいでしょうか」と聞かれますが、いつから始めてもいいんです。40歳でも早すぎることはありません。ただしお金に関する手続きなど元気でないとできないこともありますから、必要性を感じている方は早めに動き出してもよいと思います。

──お金の終活では、老後資金のあり方に不安を感じている方が多くいらっしゃいます。終活で資産の整理はどこから着手すべきでしょうか。

黒田 老後資金に対する不安の本質は「自分が最低限どれくらいで生活できるか」のゴールが見えていないことにあります。私は老後資金を考えるうえで、手持ちの資産を目的別に「残すお金」「備えるお金」「使うお金」に振り分ける「老後資金三分法」をおすすめしています(図参照)。ポイントは分ける順番。まずは「残す」お金を手持ち資産から差し引きます。このお金は、想定より長生きをしたり、インフレが進んだ際の保険としても使えます。次に「備える」お金を用意し、残ったぶんがこれから「使う」お金になります。「使う」お金を平均余命で割ると、年間予算が明確になります。予算に不安があるなら、運用などで補っていくこともできるでしょう。

──「残す」お金の引き継ぎ方として、家族への相続以外の選択肢はありますか。

黒田 死後に残った財産をNPOや公益財団に寄付する遺贈寄付という方法があります。自分が築いた財産を未来の社会に役立ててほしいという思いを次世代に託す手段です。

 ただし寄付に込めた思いを確実に実現するためには、法的な手順を踏む必要があります。遺言書の不備で無効になってしまうこともありますし、現金以外の寄付は受け入れられないと寄付先から断られるケースもあります。元気なうちに寄付先や専門家に相談しておくと安心です。

──「親の終活」も気になるテーマです。親子でスムーズに終活について話し合うコツはありますか。

黒田 親に終活やお金の話を切り出す際は、「3つのT」を意識してみてください。一つは「タイミング」。親が健康なうちに話し合いをすることはもちろん大切なのですが、ちょっとした病気が治ったときや退院時など、親自身が「この先に何かあると困るな」と実感した瞬間なら、話を進めやすくなります。もう一つは話し合いの「単位」。お盆や正月に親族総出で親を囲んで問い詰めるのは逆効果です。できれば親と子が一対一で、ゆっくり向き合う時間を持てるといいですね。最後に、「親の性格(タイプ)」を見極めること。親の価値観や考え方に合わせてアプローチしましょう。

──最低限これだけは確認しておくべき項目はありますか。

黒田 財産と医療・介護の受け方については、折に触れて話し合っておくといいでしょう。どこの銀行に口座があるか、保険や互助会に入っているのかどうかだけでも分かっていると、万が一の際に動きやすくなります。また延命治療の希望の有無は、家族が重い決断を背負わないためにも必要です。本人の意思を確認しておいたうえで、エンディングノートなどで形に残しておくと安心です。親が高齢でノートを書くのが大変なら、お子さんが聞き書きで手伝ってあげてもいいですね。また、家の中の整理や断捨離も少しずつ進めておきましょう。

──頼れる家族が近くにいない「おひとりさま」の終活では、どんな対策が必要でしょうか。

黒田 おひとりさまの場合、「万が一病気になったときや亡くなった後、自分の代わりに動いてくれる人」を、元気なうちに自分の意思で決めておかなければなりません。

 入院時の身元保証や死後事務の手続きなどを頼める身内が近くにいないなら、民間の「高齢者等終身サポート事業者」などのサービスを利用する選択肢もあります。ただし、事業者によって料金体系やサービス内容に大きな開きがあります。複数の会社や団体を比較・検討し、第三者の目を交えて契約内容を精査するように留意してください。

──これから終活を始める読者へ向けてメッセージをお願いします。

黒田 終活を大げさに考えすぎず、今できることから始めてみてください。エンディングノートの1ページ目だけを書いてみる、使っていない銀行口座や不要なクレジットカードを整理する、といったことで十分です。これからをどう楽しく自分らしく生きるか、それを考えること自体が、もう終活の第一歩。最後まで自分らしく輝くための「前向きなライフプランニング」だと思って、ぜひ元気なうちから始めてみてください。