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直木賞作家・姫野カオルコが「親指シフト」を愛用する理由は「日本語のリズム」

この道具が広く知られていないのは、日本語の危機である

2018/09/26

 ブラインドタッチが自由自在にできるようになると、

「乏しい文筆業の収入が、もしこの先、もっと減ったら筆記者をして食いつなごう」

 と、保険に入ったような気になり、こつこつと小説を書いてゆき、現在に至る。

 ものすごく速く打てるということは、どういうことかというと、日本語で何かを考えると、日本語の持つ、日本語だけのニュアンスを保ったまま、そのまますぐに文字化される、ということである。

 日本語を書くのに最適なので、私は「親指シフト」を使い続けている(ワープロ専用機は販売中止とともに使わなくなったものの)。

「親指シフト」というのは、たんにキーボードである

「親指シフト」というものを、黒電話か足踏みミシンかのように、なにやら妙な誤解をしている人がいるようだが、認識を新たにしていただきたい!

「親指シフト」というのは、たんにキーボードである。

 現在、多くの人が一般的に使っているPCに、このキーボードを接続すれば、使えるものである。

 値段だって何百万も何十万もするものではない。正規製品で1万5千円くらいで、今でもちゃんと売られている。

 現役の製品である!

 親指シフト仕様のノートパソコンだって売られている。

富士通純正のLIFEBOOK(親指シフトキーボード搭載)。もちろん現在も販売されている ©文藝春秋

メールの返信をスマホにした理由

 さて、こんな具合であるから、私は最近、メールにはスマートホン(スマホ)を使うことにした。

 なぜか。

 スマホだとローマ字入力だからである。

 PCだと親指シフトのため、メールの返信がアッというまに長文になってしまうし、心がこもってしまうからだ。

 世の大半の人にとっては、短くて心のこもらない文面のほうが受け取りやすかろう。私のほうも、メール連絡に心をこめていると本業のはかどりが遅くなる。

 そういうわけで、メールはローマ字入力ですることにしたのだった。

「親指シフト」は私にとって、心を救い、そして掬って、伝えてくれる道具である。

 この道具が、現在では、広く知られていないのは、日本語の危機とさえ思う。

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