読者との約束は果たされたはずだった。だが…
ところが、東野さんは「日常る」を書いて終わりにはしなかった。最優秀賞以外に、4つの優秀賞が選ばれていた。そのタイトル群を眺めながら、
「他のタイトルでも小説を書いたら、みんなもっと驚いてくれるんじゃないか」
それは募集要項にはない、東野さんから読者へのサプライズだった。
これで新しい短篇集が編める。周囲はそう考えて喜び、総タイトルを決め、装丁の準備も進めていた。
春になった、ある日のこと。東野さんから、突然原稿が届いた。
短篇集の準備が進むなか、東野さんから原稿が届いた
担当者は早速、読み始めた。ところが原稿は、いつまでたっても終わらない。それでも、先が気になって読むのをやめられなかった。気が付いたら、2時間を超えていた。
届いたのは短篇ではなかった。
第一部「履歴る(たどる)」、第二部「終活る(ふりかえる)」からなる、新作長編だった。
2つのタイトルから、東野さんは事件を組み立て、登場人物たちの人生を考え抜き、長編として1冊を貫く謎を生み出した。しかもそれは、「ガリレオ、最後の謎」――シリーズ最大の謎を含む、誰も予想しなかった物語だったのだ。
「読者を驚かせる前に、まず編集者を驚かせる」
これも東野さんがよく語っていた言葉だ。その言葉通りのことを、東野さんは今回もやってのけた。それも、想像すらしなかった形で。
8月5日午前0時。『永遠の記憶』は書店でついに読者の手に渡った。
読者から寄せられたタイトルをきっかけに始まった創作は、2年を経て、東野さん106冊目の著作『永遠の記憶』に結実した。

