つまり規格外の親睦会は、あえて多くの人に見てもらうために催された「ショー」だったのだ。
これほどコスパの良いイメージ戦略はなかなかない。居酒屋を借り切るコストは高級ホテルよりはるかに安い。それでいて参加者に強烈な記憶を残し、メディアの報道を見た人に「すごい経営者なのに庶民的でナイスガイ」と好感を与える。
「コージサン、頼んだよ」
だが、単なるナイスガイが時価総額800兆円超の怪物企業を作れるわけがない。リアルな彼は、どんな人物なのか。その素顔に触れた経営者に会うため、岐阜県大垣に足を伸ばした。
IC(半導体)パッケージ基板の世界最大手、イビデン。13代目トップの河島浩二社長は、水色のラインが鮮やかな作業着で取材に応じた。その装いと率直でごまかしのない物言いが、技術とものづくり一徹で来た人であることを如実に語る。
イビデンはエヌビディアのサプライヤーだが、河島社長はやきとんサミットに参加していない。実はジェンスンは分刻みの来日スケジュールの中で、イビデンのためには特に時間を割いて個別に会っていたのだ。
東京都内の五つ星ホテルの一室で会ったジェンスンは、トレードマークの黒い革ジャンではなく、落ち着いたジャケット姿だった。両社は20年あまりの取引関係があるが、2人が膝詰めでじっくり話すのは今回が初めてだという。
ジェンスンはフルーツ皿の乗ったテーブルの向こうから、河島社長との間合いを詰めるように「コージサン」と呼びかけ、熱っぽくこう求めた。「僕たちはイビデンに頼るしかないんだ。だから、どうかしっかりやってほしい。頼んだよ」。
本社から約10キロの大野町にある最新工場での増産投資のことである。イビデンはここに2800億円を投じ、エヌビディアのために最先端のICパッケージ基板を大増産する。そしてこの巨額投資のかなりの部分を、エヌビディアは前払金という形でポンと支払うのだ。
※この記事の続きでは、ジェンスン・ファン氏の生い立ちを深掘りしています。約9200字の全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア『文藝春秋PLUS』と『文藝春秋』2026年10月号に掲載されています(杉本りうこ「『倒産まであと30日』エヌビディアの爆走経営」)。
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■杉本りうこ(すぎもと・りうこ) 神戸市出身。北海道新聞記者を経て中国留学。その後、東洋経済新報社、ダイヤモンド社、NewsPicksを経て、2023年に独立。台湾の経済誌『財訊』の日本特派員

