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ノーベル賞受賞で再注目「免疫療法」は「まゆつばもの」だらけだった

2018/10/16
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「ほんものの免疫療法」と呼べるための狭き門

 がんの新しい治療法が「まゆつばもの」ではなく、保険診療に昇格して、標準治療としても認められるには、実際の患者を対象に臨床試験を行って、生存期間が延長することを示す必要があります。

 国からの承認を受けるための臨床試験である「治験」には、20~100人の健康な人を対象に安全性を確かめる「第Ⅰ相試験」、次に50~200人の患者で有効性、安全性、投与量などを確かめる「第Ⅱ相試験」、そして最後に、200人~2000人規模で、実際の使用に近い方法で有効性と安全性を確かめる「第Ⅲ相試験」があります。

©iStock.com

 この3段階すべてで有効性と安全性が認められ、勝ち残っていくのは容易なことではなく、動物実験で有望な結果を出し、人間で試す前段階まで来た候補物質のうち、国から承認されるのは「250分の1」の確率とされています。オプジーボは、この「狭き門」をくぐり抜け、生存期間の延長を示せたからこそ、多くのがん専門医がまゆつばでない「ほんものの免疫療法」と認めたのです。

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日本のがん医療を歪めている大きな要因

 がんの「最先端医療」を競って報道したがるメディアにも大いに問題があります。こうした医の倫理や臨床試験の仕組みを知らないために、まだ実際の患者で確かめもしていない動物実験の段階や、第Ⅰ相、第Ⅱ相試験の段階で「有望な治療」と報道してしまうことが多いのです。

 しかし、一番重要なのは「第Ⅲ相試験」です。そこで出た結果によって、本当に多くの患者の生存期間が延長できるのか、真価がわかるからです(ただし、市販後多くの患者に使われて、初めてわかる副作用も多いので、安全性についても慎重に報道する必要あり)。にもかかわらず、日本の大手メディアは動物実験の段階で大騒ぎするのに、第Ⅲ相試験の結果をほとんどまともに報道しません。それが、日本のがん医療を歪める大きな要因の一つになっていると私は思います。

 本庶教授の研究は画期的な成果と言えますが、がんの「免疫療法」はまだまだこれからで、多くの人が安全に使え、確実に効果を出していくには、研究を重ねる必要があります。今回のノーベル賞受賞の報道によって、多くの人にがん医療の適切な知識が広まることを期待したいと思います。

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