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さよなら“アイドル”山本彩 「君はNMB48の“金本知憲”だった」

2018/11/04
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「卒業すると、帰る場所がなくなる」

 デビュー以来、山本はNMBの顔として、常にグループを牽引してきた。NMBのシングルでは表題曲の大半でセンターを務めた。2014年5月からは2年間、NMBのチームNとAKBのチームKを兼任、多忙をきわめながら、持ち前のタフさで乗り切る。この間、ボーカルとしても、NHKの連続テレビ小説『あさが来た』の主題歌となったAKBの「365日の紙飛行機」(2015年)でセンターを務めたあたりから、その歌唱力は広く認められるところとなる。2016年のNHK紅白歌合戦では、視聴者投票による「AKB48夢の紅白選抜」で1位に選ばれた。ちょうど同年には、亀田誠治をサウンドプロデューサーに迎えて自作曲を含む1stソロアルバム『Rainbow』をリリース、ツアーも行ない、ソロ活動を本格化しつつあった。卒業を前にしたインタビューでは、グループとソロと活動の両立は大変だったのではないかとの質問に対し、彼女は次のように答えている。

《それはよく言われるんですけど、まったく逆です。グループにいながらソロ活動をするってことは、自分が帰れる場所がある。その安心感は大きかったし、だからこそ、のびのびできたんだと思います。卒業すると、帰る場所がなくなる。もう甘えられないんです》(※1)

 これを読むと、卒業コンサートでの「恩返し」という言葉にもより重みが感じられる。

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理想は……“音楽家”と呼んで欲しい

3万人の「さやかコール」に手を振り応える ©時事通信社

 NMBのメンバーにとっても、山本は尊敬の的であり、精神的な支柱だった。たとえば、2016年にNMBに加入した5期生の一人である上西怜は、大先輩の卒業にあたって、《彩さんがくださった何気ない一言一言が私の大きな自信につながりました》と、感謝のメッセージを寄せている(※3)。

 その山本が《今のタイミングで私が離れる方が、NMBがもっと成長するいい起爆剤になるんじゃないかと思うようになりました》(※4)と、卒業を発表したのは今年7月30日、東京・中野サンプラザでのNMB夏の全国ツアーの初日においてだった。彼女自身にとっても、昨年には2枚目のアルバム『identity』をリリースするなど、独り立ちするには機が熟していたといえる。

 同アルバムリリース時、インタビューで音楽活動をしているときは何と呼ばれるのが理想かと訊かれ、山本は《すごく理想を言ってしまうと……“音楽家”です》と答えた(※2)。アイドルから音楽家へ。小学生のとき文集に「ソロ歌手として紅白歌合戦に出たい」と書いていたという彼女だが、ぜひ、NMB時代に続き、その夢をかなえてほしい。

 ※1 『山本彩 NMB48卒業記念 公式メモリアルブック―さや姉の2949日―』(光文社)
 ※2 『テレビブロス』2017年9月23日号
 ※3 『AKB48Group新聞』2018年10月号
 ※4 『AKB48Group新聞』2018年8月号

さよなら“アイドル”山本彩 「君はNMB48の“金本知憲”だった」

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