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偏差値は何のためにある? 中学受験で悔いを残さない「正しい偏差値活用法」

感情論に陥らない戦略的併願校選び

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●偏差値を利用した併願戦略ステップ(3) ときには「勇気ある撤退」も必要

 入試を複数回設定している学校のなかには、ぜんぶの入試を受けた生徒を“優遇”すると宣言している場合がある。どうしてもその学校に入りたいと思っている受験生にはありがたい制度だが、一度冷静になる必要もある。

 模試では合格確率80%の判定が出ていたのに、入試本番で調子が出せず、複数回受験しても立て続けにギリギリで不合格になってしまうことが起こり得る。そういう子を救済するのがこの制度の目的であって、実力は足りないけれども入学を熱望する受験生を合格させる制度ではない。

 一つの学校が複数回の入試を実施する場合、1回目、2回目、3回目と徐々に偏差値が上がっていく傾向があり、1回目の入試でボーダー近い点数をとる可能性すら低いのであれば、2回目以降の入試ははじめから「負け戦」だ。

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「第1志望」は偏差値を気にせずに強気にチャレンジすべきだと先述したが、その学校が複数回の入試を設定している場合、どこまで深追いするかは難しい判断となる。

「『憧れ校』の1回目入試にはチャレンジしてもいいけれど、6年生の最後の模試までやってみて合格可能性が低いままであれば、2回目以降の入試は別の学校への挑戦に切り替えようね」と約束しておくことも場合によっては必要だ。

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 ちなみに、「偏差値表」を見るときには「80%偏差値表」と「50%偏差値表」の両方を使用してほしい。「80%偏差値表」では「高嶺の花」にしか見えない学校が、実は「50%偏差値表」では手頃な偏差値帯にあるという場合もあるからだ。合格確率50%が見込める学校が2校あれば、確率的にはどちらかの「高嶺の花」には受かる。「80%偏差値表」だけを見ていると、このチャンスに気付けない。

入試当日の体力面・精神面での状態も考慮する

 これだけではまだ「机上の空論」。現実的には受験生の体力面・精神面での波も考慮して併願戦略を固めなければならない。ベストコンディションで受験させてあげることも、併願戦略を考えるうえでとても重要な観点だ。

 首都圏を例にとれば、中学入試はだいたい2月1日から5日の5日間に集中する。午後入試も盛んだ。1日と2日の2日間だけで午前・午後あわせて4回の入試を受ければ、理論上どこかに合格できる可能性は高まる。2月1日・2日の2日間で納得のいく合格を手にしておいて、精神的な余裕をもって後半戦に挑むという考え方もできる。

 しかし、午前・午後と受験を続ければ、体力面・精神面での消耗が激しいことは言うまでもない。2月3日に大きなチャレンジがある場合、あえて2月2日の負担を軽くしておくという考え方も必要だ。

 2月1日の午前と午後に受験して、午後入試の結果が1日深夜に判明し、その結果によって、2月2日の受験校を変える(強気と弱気の二択ができるように事前に2校に願書を出しておく)といういわば「スクランブル作戦」も昨今では珍しくない。

 まるで複雑なパズルを解くような作業のくり返し。親の論理的思考力が試される。それでもなんとか、悔いの残らない併願戦略を練り上げる。これが、中学受験最終盤における、親の重要な役割だ。

「あなたは第1志望のことだけを考えていればいい。でも、ほかにもたくさんいい学校はあったでしょ。日程の問題があるからぜんぶを受けることはできないけれど、万が一第1志望がダメだったときでもあなたにいちばん合った学校に合格できるように、お母さんとお父さんでしっかり考えておくから安心しなさい」などと伝えて安心させてあげてほしい。

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