「面白いパフォーマンスをする子がいるんで、見ていった方がいいですよ」
そんな話を知り合いから聞かされたのは、5月の関東インカレでのことだ。男子800mの決勝レース前のことだった。
メガネに「本気」印の入ったハチマキ
確かに競技が始まる前だというのに、観客たちが妙に騒がしい。期待を込めた笑顔で、レース前の選手コールを心待ちにしている様子がありありとうかがえた。
実際にコールが始まり、それが1レーンから外側に進むにつれ、徐々に歓声が大きくなる。そして、選手紹介が7レーンに差し掛かった時、見たことない光景が目に入ってきた。
キレッキレのジョジョ立ち。
あまりに美しいキラークイーンがそこにいたのである。
中継のためのテレビカメラも、一度通り過ぎたその選手の表情を再度、映し直すほどのインパクトだった。メガネに「本気」印の入ったハチマキという超独特な出で立ちもさることながら、そのキレのある動きは、嫌でも印象に残った。
気になって話を聞くとこの選手、大会ごとに選手紹介のコールの際に色々と練られたパフォーマンスを見せてくれるのだという。そのため、少しずつそれを楽しみに観戦に訪れるファンも増えているというのだ。
パフォーマンスの主は、鹿居二郎というランナーだった。
このレースで一番の歓声を集めた
鹿居は現在、亜細亜大学の4年生。1年生のころから3年連続で関東インカレの表彰台に上がっており、昨年の日本学生個人選手権では、全国3位に食い込んでいるほどの実力派中距離ランナーだ。
この日のレースは前半から積極的な走りを見せたものの、後半で失速して4位に終わる。ただ、このレースで一番の歓声を集めたのも鹿居だった。
「関東インカレではこれまで勝てていなくて、今年も自分の勝負弱さが出てしまったなと感じています。長めのスパートには自信があるんですが、最後の勝負になった時のキレが課題ですね。今後は日本選手権もあるので、まずはそこを目指してやっていきたいです」
そう語る鹿居が陸上競技を始めたのは、中学生の時だ。最初は短距離をやっていたが、冬季練習で走り込みをした結果、中長距離にも挑戦するようになったという。
「長い距離も割と走れていたので、進学するときは強豪校の中京大中京高校に進んで、駅伝を本気でやってみたいなという思いがありました。そういうわけで高校では長距離を中心にやっていたので、800mも含めた中距離はほとんど走ったことがなかったんです。トラック競技でも1500mがメインで、インターハイは出られませんでした」