前回、ぼくはこれからの2年間を、笑いの仕事に集中したいと思っている、という話をした。で、この一カ月間、大学の方をどうするかをゆっくりと考えてみたんだけれど、やっぱり大学生を続けながら笑いの仕事には集中できそうにないな、って感じてさ。それで大学は自主退学することに決めたよ。

 いきなりのことで驚く人も多いかもしれないね。でも、そう決断したのにはいくつかの理由があるの。今回は「キャンパスライフ」の最終回として、そのことを話しておこうと思う。

 ぼくは卒業するための単位がかなり足りないんだけれど、もともと今年は講義を取らずに、「笑いと仏教」というテーマで卒論だけを書こうと考えていたんだ。そのテーマを選んだのは、仏教学部で4年のあいだに学んできた知識を、コメディアンとしての自分の経験と組み合わせてみたらどうか、と考えたからだった。

 

 仏教を大学で学んでいて一つ気付いたのは、教科書の中に「民衆」の姿がほとんど出てこないことだった。例えば、行基という偉いお坊さんがいて、架橋などの土木工事をしたという話が出てくる。でも、行基さんの作った橋に、そこにいた人たちがどんなふうに感謝したのか、というエピソードはほとんどない。浅草の舞台で育ったコメディアンのぼくには、それがどうにも物足りなくてさ。もし行基の人生を描く教科書に、一言でも「この工事のお陰で本当に助かった」という名もない人の言葉や、手を合わせて感謝した人がいた、といった光景があれば、ぼくにも素晴らしさがすぐに分かるのになあ、って。だから、そういう民衆の姿や言葉を仏教の歴史の中から拾い集めたいと思ったの。

 で、その一つの手掛かりになりそうなのが「笑い」なんじゃないか、と考えた。仏教の逸話にあるたくさんのエピソードから、笑いに通じるものを取り上げていくと、人々の顔が浮かび上がってくるかもしれないと想像したから。

 それで、その卒論の構想も半分くらい頭の中で考えていたのだけれど、卒論というのは卒業に必要な単位の科目を登録しないと、提出できないんだよね。まあ、言われてみれば当たり前とはいえ、そうすると今年のぼくには大学ですべきことが一つもなくなってしまう。それなら一度辞めるのが、結局は自分にとって一番の選択だと判断したんだ。

 そもそも、ぼくが大学生活から少し距離を置こうと思ったのは、自分がこの4年間ですっかり「勉強の頭」になってしまったことに気付いたからだった。

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source : 週刊文春 2019年6月13日号