【前回までのあらすじ】奏は「山城法律事務所」の応接室で山岡成一と向き合っていた。現在七十四歳で元出版社社員、「奥田美月様」と宛名が記された和紙の封筒を持参していた。差出人は小谷義昭――美月転落のきっかけとなった九一年の「暴言テープ」事件の記事を書いた元ライターだ。実名や実家の店の情報など、瀬尾に個人情報を公表されたうちの一人だった。
「小谷さんは六十八歳ですからね。実家は――先生もご存じだと思いますが――静岡の酒屋で、店に苦情電話が殺到して、店外にあった瓶を割られたり、YouTuberが店でライブ配信したり、しばらくは大変だったようです」
山岡との面談に備え、奏は公判資料の小谷に関するパートを読み返したが、ネット上ではマスコミ憎悪も手伝って、数え切れないほどの批判が集まった。
【週刊誌なんかなくなれ! マジでいらない】
【人の不幸でぶくぶく肥え太るマスゴミ】
【こいつこの店の社長ってこと? 人を地獄に突き落としといて自分だけいい暮らし? 許さん。逃げきれないからな、小谷】
【配達してるみたいだぜ。みんな一斉に注文しよう! キャンセル、キャンセル】
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source : 週刊文春 2024年5月23日号