【前回までのあらすじ】弁護士の久代奏は、自分が天童ショージと中学の同級生であることを知っていながら指名してきた依頼人・瀬尾政夫と署で対面を果たす。だが、何度尋ねても八十三名もの個人情報をばらまいた動機を瀬尾は一切口にしようとしない。翌朝、母と朝食を取っていると、テレビの番組が瀬尾のことを取り上げているのに気づき、思わずボリュームを上げた。
「こちらが、瀬尾容疑者が投稿したと言われている内容なんですが……」
女性アナウンサーがフリップを立てると【或るカナリアのさえずり】というタイトルが画面に映った。
今年一月、某掲示板に投稿された長い文章。フリップにはそれを省略してまとめた言葉が分かりやすく並べられている。瀬尾が書いたものではないかと、ネット上で話題になっているという。
「この人、やらしいなぁ。人の名前とか住所とかみんな晒したんやろ」
母は一視聴者の目でテレビを観ている。
平穏な暮らしを揺るがした同級生の自殺と瀬尾からの弁護依頼。この騒ぎの渦中にいる奏は、いつ自分の名前が挙げられるか分からない立場にある。
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source : 週刊文春 2023年9月7日号