【前回までのあらすじ】弁護士九年目を迎えた久代奏は、京都にある事務所で一人、どんよりとした表情を浮かべていた。憧れていた弁護士資格を取得するまでは順風満帆な毎日を過ごしていた奏だったが、離婚訴訟や債権の回収など、日々の業務をこなすうちに、心の中に不満がくすぶっていった。そうして彼女が至った結論は、「弁護士は人が思うほどいい仕事ではない」。

 

 奏は窓際の椅子を一八〇度回転させ「山城(やましろ)法律事務所」をぐるりと見回した。

 三方の壁際にデスクや書棚があり、中央には打ち合わせ用の楕円形テーブル、別室は来客のための応接室と所長室。所長――ボス弁――と雇われ弁護士――イソ弁――二人の小所帯にしては広い方だ。だが、三年前まで勤めていた東京の超大手事務所に比べれば、同じ職種かと思うほど規模が違う。

 自分はそのどっちにも馴染めなかった――。

「辞めよっかな」

 立ち上がって伸びをしながら明るく言ってみたが、無論、応える者はない。

「あー、お寿司食べたい、カツサンド食べたい、粟ぜんざい食べたい。誰か持ってきてー」

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source : 週刊文春 2023年8月17日・24日号