【前回までのあらすじ】元写真週刊誌デスクの山岡は、未だ表に出ていない八〇年代からの美月の過去の話を語り始める。美月の新人時代のスキャンダル写真が所属事務所に持ち込まれ、これを弁護士の柴原恭士が解決したこと。美月と俳優の三浦誠の交際では、ドンこと三浦の事務所の社長が強引に別れさせたものの、二人は秘密裏にヨリを戻していたということ……。

 

「そのことがドンにバレてしまって、二度目のことなんで逆鱗に触れたそうです。これは私たちも全くのノーマークで、後になって知ったことです。九〇年から翌年にかけて美月さんの露出が減っていたのは、単に仕事をセーブしているだけだと思ってました。しかし、彼女はドンに睨まれて芸能生活の危機に瀕していたんです。そしてそれだけではなく、さらなる窮地に陥っていました」

 山岡は少し間を置いて「家族のことです」と言った。

「家族……ですか」

 奏はまず、山岡はどこまで情報をつかんでいるのだろうかと思った。職業柄、美月の過去に精通しているのは確かだ。しかし、奥田美咲が取材拒否をしている以上、別府で自宅が占拠されたことまでは知らないのではないか。

 奏は昨日届いた美咲からの手紙を思い出した。

「キャバレー雅」の支配人、佐分利が中華料理店にいる美月を見つけ、和枝と交渉して保護したのが一九七七年の夏。

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source : 週刊文春 2024年5月30日号