【前回までのあらすじ】元写真週刊誌デスクの山岡は、二枚の写真を取り出した。一枚目には、美月が母とその情夫の頼みに負けてヤクザの新年会で歌っている場面が写っていた。もう一枚には、この新年会に出席している二人の大物俳優――美月がヨリを戻した俳優の三浦誠が所属する事務所の社長でドンと呼ばれる人物と、古い付き合いのある二人の男が写っていた。

 

「この二人がドンに美月さんのことを話したんでしょうか?」

「恐らく。それで写真を探したんだと思います。目の前に奥田美月がいれば、誰かが絶対撮ってるはずですから」

「その情報提供者は、二人の俳優のことを伏せて、美月さんのことだけを山岡さんに話したってことですね」

「私もナメられたもんです。もちろん、編集長にはボツにする旨を伝えました。最初は載せない方向で進んでたんですが、途中から他部署に圧力が掛かり始めたんです。ドンの事務所とその系列に所属するアイドルの写真集やグッズ販売は当時、確実な収入源でした。そこを狙われたのです」

 ドンが美月排除に執着したのは、一面ではドル箱だった三浦誠のブランドを守るためだったのだろう。しかし「自分の顔に泥を塗った小娘」に対する制裁の意味合いの方が強かったのではないかと、奏は推察した。

 メンツという名のマチズモが他者への威圧となり、ドンはビッグネームの奥田美月を排することで自らの威勢を見せつけることができる。無論、そこには「万雷」の脆弱さを視野に入れた力学もあったに違いない。

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source : 週刊文春 2024年6月6日号