【前回までのあらすじ】札幌の大学に通うマチは、恋人の家にあった雑誌を読んで狩猟に惹かれるが、狩猟免許を取りたいと話すと彼はそれを歓迎せず、二人は別れることに。狩猟をやろうと思っていると友人のえみりに話すが、彼女もまた、理解してくれなかった。そして翌年十月。狩猟免許を取得したマチは、ハンターとして初めての鹿撃ちに参加し、見事一頭を仕留めた。

 

 マチはハンター一年目となったシーズンで、七頭の鹿を仕留めた。もちろん、撃ったが逃したケースはその五倍以上になる。「みんなそんなもんだ、むしろ立派な結果だ」と新田は慰めてくれた。

 マチは獲物の数を求めることには意義を見出さなかった。銃を持ち、山に入れば当然その日に獲物を手に入れたいとは思うものだが、先輩ハンターの撃ち方、判断基準、山での振舞いなどをよく見聞きすることを心がけ、ボウズの時も経験として何かを持ち帰ることを目標にした。

 一年目。自分は初心者。それはいい緊張をマチにもたらしていたし、幸いなことにそんな新人を先輩たちは見守り、経験を積ませてくれた。

 チーム戦。いつのまにか、狩猟についてマチは漠然とそういうイメージを抱いた。一頭の獲物を仕留める時はもちろん一人のハンターが撃つのだけれど、山に入ること、獲物を見つけることは情報を共有しながらでないと格段に効率が悪くなる。陸上やトレイルランなどといった個人競技に没頭していたマチには、新鮮な体験だった。

 翌年、四年生になり、就職活動が本格的に始まった。マチはもちろん普通に企業に就職するつもりだ。

 生家が経済的に裕福であるとはいえ、大学卒業後も食わせてもらうつもりはさらさらない。母が経営するジムでインストラクターのバイトを続けさせてもらう選択肢も考えなくはなかったが、その前に両親から「ちゃんとよそ様の企業で会社員を経験しておきなさい」とのお達しがあり、マチも納得して頷いた。

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source : 週刊文春 2024年12月12日号