「よかったよ。I hopeだ」
4月25日、東京地裁422号法廷。この日10時から始まる東京五輪汚職事件の公判に姿を見せた被告の高橋治之(81)は、「裁判長が代わったみたいですね」と尋ねる私に一瞬表情を緩めてこう応え、法廷へと入っていった。
東京五輪の組織委員会元理事で、電通の元専務である治之の出廷は、実に約4カ月ぶりだった。2023年12月に始まった裁判は、毎月公判期日が入り、計16名の証人が法廷に立ち、審理が進められてきた。この度の長いブランクは、裁判所側の都合だという。
東京五輪汚職事件では、起訴された15人のうち、すでに贈賄側の10人と収賄側の1人の有罪が確定。治之の裁判を担当していた裁判長の安永健次は、そのうち二つの公判も担当し、組織委の会長だった元首相、森喜朗の供述調書などを根拠に、治之の職務権限を利用した“賄賂”を認定していた。安永が裁判長である限り、治之にも厳しい判断が下されるとの見方が専らで、それが大きな重石となっていただけに、裁判長の交代で治之側は視界が開けた思いだったのだろう。
決して弟と同じ轍は踏まない――。そこには、強気の無罪主張が時に揺らぎ、有罪判決を受けた弟とは違う一貫した強い意思が滲んでいるように感じられた。

スポーツマーケティングの第一人者と呼ばれた治之には、バブル期に“環太平洋のリゾート王”と呼ばれた1歳違いの弟がいた。日本長期信用銀行(長銀)などからの融資で国内外のホテルやゴルフ場を買い漁り、1兆円規模の「イ、アイ、イ」グループを作り上げた高橋治則である。だが、バブル崩壊後、治則の命運は暗転。1995年6月に東京地検特捜部に背任容疑で逮捕され、“長銀を潰した男”の汚名を着せられた。その奈落の底から這い上がり、復活の兆しを見せていた05年、彼はくも膜下出血で59年の生涯を閉じた。
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source : 週刊文春 2025年5月29日号