「ビジネスをやらないと食っていけないんだよ」――。今年2月上旬、麻布十番にある隠れ家的な店のカウンター席。“五輪を喰った兄”は、自らが置かれた状況を語り出した。
「ここ見てよ。酷いでしょ。チタンを8本も埋め込んで、骨を補強する手術をしているんだ。神経がいっぱい通っているところだから、痛くてね。でも、これがなかったら保釈はされていなかったと思う」
首の後ろに、縦に太く残された痛々しい手術痕を見せながら、高橋治之は、ざっくばらんにそう語った。港区にある彼の事務所で三度目の対面取材をしている時だった。後縦靱帯骨化症という難病で、放置すれば指先が痺れ、最悪歩けなくなる可能性すらあったという。原因は愛犬とじゃれ合っている時、不注意で転倒してしまったことで、その後遺症が深刻な事態を招いてしまったのだ。
しかし、結果的にそれは不幸中の幸いとなった。彼の人生にとって最大の試練が訪れるのは、転倒から約3カ月後のことである――。
始まりは2022年7月20日、読売新聞が一面で報じた特ダネ記事だった。
〈五輪組織委元理事4500万受領か 東京大会スポンサー AOKIから〉
記事のなかで、名指しで疑惑を指摘されたのが、電通の元専務で、東京五輪の組織委員会の理事だった治之である。治之は、自らが代表を務めるコンサル会社「コモンズ」を通じて、東京五輪のスポンサーの一社、紳士服大手のAOKIホールディングスから4500万円超を受け取っていた。組織委員会の理事は、15年制定の特措法で「みなし公務員」と規定されており、職務に関連して金品を受け取れば収賄罪に問われることから、東京地検特捜部が捜査を進めているという内容だった。
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source : 週刊文春 2024年7月25日号