毎年のように俳優やラッパーなどのアーティストがドラッグをめぐって逮捕されていく芸能界。一体、何が起きているのか。長年、薬物取材を手がけてきた「週刊文春」エース記者が紐解く芸能界の薬物汚染の実態。case.9はバンドマンのJ。(初回は#1へ)

「野菜」「アイス」「24時間手押し」

 歌舞伎町の喫茶店「ルノアール」。その日、取材協力者の紹介で知り合った佐々木涼太(仮名)は人懐っこい笑顔を向け、開口一番、こう言ってのけた。

「歌舞伎町なんて、少し歩けばポン中(覚醒剤中毒者)だらけっすよ。コロナ禍でもバンバン売れるし、みんな家に籠もっているから売上が増えた。僕くらいになると、街ですれ違っても『こいつ、ポン中だ』って雰囲気でめちゃくちゃわかるんですけどね」

歌舞伎町にあるルノアール 写真はイメージです

 指定暴力団の準構成員である佐々木は、違法ドラッグの「小分け売人」というシノギを持つ。30歳の若者だが、覚醒剤に手を出したのは早く「シャブ歴は15年」という。

「ほら、また連絡が来ちゃった」

 和彫りがぎっしりと刻まれた腕を伸ばし、スマホの画面を見せてくる。テレグラムには〈すぐほしいです〉というメッセージが届いている。

「これ、シャブ中のギャルね。あとで待ち合わせしてホテルでセックスする。シャブやってる女なんて、ホテルに誘えば100%付いてくる。こっちの子は風俗嬢なんだけど〈いま彼氏とバツ(エクスタシー)やってます。毎日シャブほしいです〉みたいなメッセージが毎回来てる」(同前)

メッセージが薬物の入口に

 関西出身の佐々木は「僕はもともと客上がり。色々あって3年前にバイ(ドラッグの売買)をやるようになった」と語る。

「最初はツイッターで客を募っていたんですよ。『野菜』(大麻)、『アイス』(覚醒剤)、『24時間手押し(手渡し)』なんて書くと、客からわんさかDMが届く。でも、数年前に僕らのグループが一斉にパクられちゃって東京に逃げてきたんですよ。それからツイッターは『野菜』と書いただけで規制に引っかかるようになった」(同前)

売人のテレグラムに記されていた「具体的な品目」

 現在、違法ドラッグの売買は秘匿性の高いアプリ「テレグラム」を利用するものが主流になっている。グループチャットの機能を利用し、隠語で仲間を募る。「24時間OK」「薬局」「お品書き」などと書き込めば、灯火に群がる夏虫のようにドラッグ中毒者が湧いてくる。佐々木は、歌舞伎町から大久保にかけて“シマ”(縄張り)を持つ「小分け売人」である。外国人が密集する雑多なエリアに“ヤサ”(保管庫)を構え、“発注”を受けると、即座に動き出す。

テレグラムの画面 写真はイメージです

「テレグラムのグループチャットには常連客が60人くらいいて、そういうポン中がひっきりなしに『今からお願いします』って連絡をくれる。ポン中はね、だいたい動きが早いんすよ。大麻と違って『今すぐください』っていうのがほとんど。シャブは体がそれを欲したら収拾がつかない。みんな水に飢えた乞食みたいなもんで。奴らの購入ルートは僕だけじゃなくて、2、3の“業者”と繋がりがあるのが普通なんで。僕が連絡付かなかった場合、ものの5分でそっちに流れていく」

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source : 週刊文春