今いちばん好きな番組がこれです。

 近ごろの旅番組は「安上がりでちょいと物珍しい」方向を目指す、いわば「志の低い」ものばかりである。

 はっきりいってこの『ケンコバのほろ酔いビジホ泊全国版』もそういうやつだ。「もう豪華なやつは流行んねーんだよ、ビジホとかどうよ、ケンコバあたりに回らせてよ」なんてプロデューサーのテキトーなひと言で始まったのではないか。そう思わせる安さにあふれた番組です。

 が。「テキトーに振ったバットがボールを真芯で捉えてしまいなんと場外ホームラン」だった!

ケンドーコバヤシ ©文藝春秋

 内容はタイトル通り。ケンコバが地方都市のビジネスホテルに泊まり、夜の町で飲み食いする。それだけ。それだけなのに、見てるだけで「あああーーっ」といちいち声が出る。それぐらいすばらしい映像美。

 いや、美は言いすぎた。でも、毎回登場するビジホ――チェーンではない、その土地土着のローカルビジホのフロント、廊下、ドアをあけて入った部屋。クリーム色なのかタバコのヤニなのかわからない壁紙とカーテン。6畳ぐらいにみっちり詰まったベッド(カバーはゴブラン織り)に机にテレビ、せまっ苦しいバストイレ、ダサい室内着。ああ、これこそ「典型的ビジホ」。たまらん。

 これが西成の木賃宿ならもっと汚くて粗末で、だからこその味わいや、バラエティ的騒ぎどころもあるが、地方都市のフツーのビジホの、まったくアートにもサブカルにもなり得ない「生ぬるいしょぼさ」。それが番組からあふれ出す。

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source : 週刊文春 2025年7月31日号