だれにでも夢はある。特別に魅力を感じ、あこがれ、いずれはああなりたいと夢見たのは、記憶をたどると小学生のときにさかのぼる。

 大相撲のテレビ中継が始まったころ、テレビをもっている近所の家に中継を見に行った。横綱の意味もロクに知らないにもかかわらず、数日見ただけで「これだ!」とあこがれるにふさわしいと見抜いた対象は、横綱千代の山だった。

 それと並行してわたしがあこがれたのは鞍馬天狗だった。近所の映画館で覆面で馬を駆って救助に向かう姿を一目見ただけで「これだ!」とあこがれの対象を見抜いた。間違っても鞍馬天狗にまとめてやっつけられる侍にはあこがれることはなかった。

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source : 週刊文春 2025年8月7日号