「人が最もやる気を出すのは、自らが考えたアイデアを形にしていい時である」。今や社員数8000名だから色んな人がいるけど、いまだにサイバーエージェントはやる気に満ち溢れた人がかなり多い会社だと思う。それが外にも伝わるのか、私はよく他社の経営者から「どうやって社員のモチベーションを上げているんですか?」と質問される。

 でも、この質問に答えるのは難しい。なぜなら、採用基準から人事制度、社内の活性化、どの事業に参入するかに至るまで、社員のやる気を引き出すため、我々はありとあらゆることをやっているからだ。だけど、なぜそこに至ったか、思想の源流を端的に言い表すなら冒頭の言葉だ。人は、誰かに指図された仕事ではなく、自分が考えたアイデアを形にしている時に最もやる気を出す。「自分たち」に置き換えても良いだろう。

 学生の学園祭を例に挙げると、仲間とアイデアを出し、何を出店するか決めて、モノを仕入れ、お店を作り、装飾し、当日はみんなで一生懸命販売する。こういうのはどれだけ大変でもやり甲斐がある。そして、結果として成功し儲かったら最高の達成感を得られるだろう。失敗して赤字でも、自分たちのアイデアならその悔しさまでも充実感に変わるだろう。逆にこれが、先生など上からやれと言われたものだとしたら、面白さは激減する。困難を乗り越えるのは面倒だし、結果への拘りも生まれない。これは、会社においても同じことだ。優秀な社員を採用し、彼らのやる気を引き出すことで会社を伸ばしてきた当社では、当事者に考えさせ、決めさせることには非常に拘っている。

9割がたは第1希望に

 2代目社長の候補16名を対象に昨年行った研修で、私が書いた「引き継ぎ書」についての講義をやり、この考え方を説明したら、参加者たちが「目から鱗」みたいな顔で聞いていた。16名はサイバーエージェントに新卒から入社した人ばかりで、ずっとモチベーション高く働いてきたからこそ、社長候補に選ばれるまで至った訳だけど、(そんなカラクリがあったのか)と、実感するほどには身に覚えがあったのだろう。

 当社では、例えば新入社員の最初の配属からして、会社都合を押し付けない。配属希望先を第5希望まで書いて提出してもらうけど、例年9割がたは第1希望に配属が決まる。人数調整でどうしても難しくても、上位に希望したどこかには必ず決まる。これは、自分で選んだ先なんだから頑張ってくれよ、という会社からのメッセージでもある。

 以前、この連載のバレンタインの話で「自由と自己責任」の原則について触れたけど、基本は任せて伸ばすスタンスだ。もっと言えば、「勝手に決めて勝手にやれ」という感じ。だから社長の私であっても、任せている事業や仕事に口を出すことはほとんどない。ABEMAのように、トップを兼任することはあるけれど、これもABEMAの社長を任されている自分が、自由と自己責任のもとに個別事業に責任を負っているだけだ。広告代理店事業やゲーム事業など他の主要事業については、長らく調子が良いこともあって、普段から全くと言っていいほど口を出してない。

「引き継ぎ書」研修でも配られた経営で重視する4項目を記したカード

 サーバントリーダーシップという言葉があるけど、私のリーダーシップは基本的に貢献型だ。トップダウンで命令するのはどうしても必要な時に限られる。逆に、任せている人に対する支援は労を惜しまない。資金面はもちろんのこと、内部の人材の工面や外部との関係性フォローなども。また、邪魔をしないことも重要で、全社的なルールを作って押し付けるようなことも最小限に留めるようにしている。ましてや手柄を横取りしてやる気を失わすことなど、あり得ない。

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source : 週刊文春 2025年8月14日・21日号