9月に入ったが、残暑厳しい日が続く。外にいると公園などでよく見るミストシャワーでも浴びたい気分になる。

 ある日、私はジョウロを手に、自分の将棋研究室前の花壇で水を撒いていた。そこに食事の約束をしていた青年D君がやってくる。十数分は歩いたようで、汗だくである。

「お疲れさん、ご飯前にジョウロの水でも浴びて行くかい?」

「……いえ、結構です」

 犬だったら喜ぶかもしれないが、相手は人間である。暑すぎると笑いのネタもスベりやすくなるものだ。

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source : 週刊文春 2025年9月11日号