シーズン3なので前からやってたのかもしれないが気づかなかった。でも夏休み期間中にこれを発見できたのはよかった。【夜ドラ】『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ』。

『映像の世紀バタフライエフェクト』で戦中戦後の陰気な映像をたっぷり見て(自殺した近衛文麿の死に顔など見たくなかった)、すっかり暗い気持ちになったところでいきなりこれが始まった。OPタイトルには藤子F先生のあの絵が明るく楽しく躍り、しかし、何か不穏な空気が……。

 家族で旅行中に飛行機が墜落し、少女みどりと青年坂口だけが助かるんだけれどそこはまったく生きた人間の気配がないジャングル。2人は助けを求めてジャングルをさまよい歩き、いかだをつくって川を下り……。

 という、まあ想像通りに緑に覆われて廃墟となったJR新宿駅がドーンと現れて絶望という『猿の惑星』パターンの後に希望が来るという、これ、15分の前後編なんですよ。朝ドラ2回分でこれをやるんですよ。1回15分なのに大河の1回分ぐらいのコクがあり、続きはどうなるんだ!というヒキもすごい。

 そして宮沢氷魚が、墜落事故の生き残りでややテンションのおかしな青年役を「こ、これは氷魚がやるしかない」というぐらいの好演。主人公の少女「みどり」は、ものすごくこのドラマの雰囲気にぴったりな美少女。……これを見ながら私が思い出したのは、NHK『少年ドラマシリーズ』ですよ! みどりの、美しいけれどやや垢抜けない感じは「少年ドラマシリーズの主人公の少女」そのもの! 昭和の夕方、小学生が夢中になって見ていたNHKのSFドラマの中にいた少女が令和に生まれ変わって登場した、と思いましたね。

宮沢氷魚 ©文藝春秋

 しかしだ。少年ドラマシリーズって、昭和の子どもたちにはけっこう影響を与えた番組だと思うがいつの間にかなくなった。今、子供向けの、アニメでもヒーロー物でもないドラマってあるんだろうか。少年ドラマシリーズの最後のほうは「こういうのって、もう流行らないよなあ」という感じで消えるべくして消えた感じだったけど、これを見てたら「こういうのこそ少年ドラマではないか!」。わかりやすいSFで、不穏な空気も漂っている、しかし救いがあるという内容。藤子F先生だから安心だし、藤子F先生の作品の中にある「怖さ」のエッセンスもうっとり味わえる。

 でも放映時間は午後10時45分からなんだよな。

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source : 週刊文春 2025年9月18日号