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立川19歳ホテル惨殺犯 “訴訟魔”の父と動画への執着 180㎝サッカー少年の転機は高校

「週刊文春」編集部
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現場のホテル周辺を調べる捜査員
現場のホテル周辺を調べる捜査員

 

 風俗業の女性をメッタ刺しにして逃走した19歳。仕事は長続きせず、ゲームやネット動画にふける日々を送る中、周囲には父親との確執や世の中への不満を漏らしていた。元は大人しいサッカー少年はいかにして殺人鬼と化したのか――。総力取材でその素顔に迫る。

「思春期の中でも色んな悩みもあるし、男同士で話をしたこともありますけどね。一般の悩みはいっぱいあったと思いますよ」

 どこか“他人事”のように話す男性。彼は殺人犯となった少年の父である――。

◆◆◆

「仕事に行ってくる」

 6月1日早朝。少年は母に嘘をつき、白色のスクーターに跨(またが)った。バッグには刃渡り20センチの文化包丁を忍ばせている。凄惨な事件が発覚したのは、それから約8時間後のことだ。

 通報を受けた捜査員が東京・立川市のラブホテルの一室に踏み込むと、一面血の海。乱れたベッドの脇に上半身裸の女性が転がり、すでに息絶えていた。

 翌2日、逃走していた羽村市内で身柄を確保されたのは、東京都あきる野市に住む少年A(19)だった。

ゲームやアニメ好きの少年だった
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「警察は無作為に風俗業の女性を狙い、明確な殺意を持って犯行に及んだと見ている。Aは取調べに『風俗の女性は少子高齢化を助長している』などと供述しています」(社会部記者)

 幼馴染の多くが「口数が少なく大人しい」と口を揃えるAは、いかにして殺人鬼に変貌を遂げたのか。

 2001年11月、Aは北海道出身でタクシー運転手の父と、東京郊外の出身で専業主婦の母との間に誕生。3歳年上の姉と4人で、あきる野市の住宅地にある2階建ての小ぢんまりとした一軒家で暮らしていた。

 小中学校の同級生が語る。

「小学3〜4年生のときは、3DSでドラゴンクエストを一緒にやりました。中学ではサッカー部でサイドバック。決して上手じゃなかったけど、孤立していたというような印象は全く受けなかった。Aはとにかく運動が好きで、部活や体育のときは生き生きとしていたような覚えがあります」

 熱心に練習に励んだサッカー部の顧問や仲間に支えられ、Aは明るい中学時代を過ごした。

中学ではサッカー部に入部
中学時代のA(卒業アルバムより)

 だが、17年4月、地元の都立福生高校に入学すると、Aの様子は一変。高校時代の同級生が打ち明ける。

「あれは高校1年の夏頃のこと。突然、『エス教が凄いんだよ』と嬉々として話し始めたのです。どうやら創価学会にのめり込んでいたようで、Aと同じ陸上部の子も何度か誘われていた」

 AのLINEのプロフィール欄に変化が表れたのは秋口からだった。例えば、

〈X(同級生の名前)は癌で死ぬ運命。お前はこのままだと癌で死ぬぞ〉

 同年11月以降、その言葉は狂気を帯びていく。

〈俺は昔に福生高生はみんなブロックしたが もし ブロックして削除してない奴がいたら、ブロックして削除しろ さもなければ呪って癌で殺してやる Xもし俺に会う事があったら殴る〉

高校時代のAのLINE

 別の同級生にとっても、Aの前触れなき“変調”は恐怖そのものだった。

「同級生と『そういや、あいつ不登校だね』と言っていたら、急に脅迫的な文章を書き込むようになったんです。仲間うちでは『パラノイア(妄想症)ではないか』と話題になった」

 母はAの逮捕時、メディアの取材に「高校の時、言葉のいじめがあったとこぼしていた。それで人間不信のような感じになったのかも」と語っていた。

 だが、LINEで名指しされたX君は首をかしげる。

「彼は人とコミュニケーションがうまくとれないので、クラスでも浮いていたけど、いじめられたりはしてなかった。2年の時には別のクラスで、教室移動の際に目があった時、中指を立てられたんですよね……。でも、彼の恨みをかった理由が思い当たらないんです」

 結局、Aは2年時の9月に高校を中退し、通信制の「N高」に編入。同時にコンビニや映画館などでアルバイトを始めたが、長続きしなかった。Aが勤務したコンビニの店長が振り返る。

「180センチの長身で、黒髪のイケメンでしたが、仕事の覚えがすこぶる悪く、商品配列やレジ打ちなど、何をやらせても上手くできなかった。結局2〜3カ月して、こちらから辞めてもらったんです」

 約7カ月間働いていた商業施設の担当者はこう語る。

「調理をさせたところミスがあり、指導したら『こう教わったんで!』と声を荒らげたのです。短気で明るいタイプではないため『Aと同じシフトは嫌だ』『急に怒るから一緒に働きたくない』と言ってくるスタッフが多く、難儀しました」

 別のスタッフはAの“逃避癖”に悩まされた。

「声は大きいので接客を担当させたのですが、休憩が終わっても戻って来ないことが複数回あった。『時間を勘違いした』と言って、30分もオーバーしていた」

 やがてAは、自衛官になる夢を抱き始める。19年7月に一般曹候補生試験を受験するも不合格。さらに20年2月、バイト先の上司に「自衛隊に就職が決まったから辞めます」と告げ、自衛官候補生試験を受けたが、またしても不合格。同年3月、N高を卒業したAの就職先はなかった。

細身で足が速かったという

 この頃から家族との関係でも問題を抱えていく。

「Aは私に『父親と上手くいっていない』と話していました。理由を聞くと『お金で揉めていて……』と。関係は良好ではなく、そのことで彼は悩んでいました」(前出・商業施設の担当者)

 父は北海道から上京後、自動車関連会社に就職。約20年前、タクシー運転手に転身した。勤務するタクシー会社の運転手が語る。

海外サイトで殺人動画を

「彼はとにかく喋りが達者で、付いたあだ名は“九官鳥”。女性好きで、十数年前は女性事務員と深い仲が疑われた。彼女には夫と子供がいたのですが、07年6月に離婚。その2カ月後、元夫が2人の関係を疑い、(Aの父に対し)不貞行為の慰謝料請求をしました。請求自体は証拠不十分で認められませんでしたが、その後、逆に彼は元夫らに対して名誉毀損で1000万円を支払うよう提訴したのです。しかも、当初は本人訴訟。最後は弁護士を入れて争いましたが、そんな主張が通るわけがなく、10年12月に請求は棄却されました」

 Aの父は社内で“訴訟魔”として知られていた。

「不倫裁判より前に、彼は同僚と些細なことで口論になり、殴り合いの末に慰謝料請求の裁判を起こしたと聞いています。その後、同僚は会社を辞めてしまった」(別のタクシー運転手)

 そんな父の背中を見て育ったAは、将来の選択肢を委ねたこともあった。

「これからの少子高齢化の時代で必要なのは介護だ」

 そう父から背中を押されたAは、昨年5月、介護福祉施設に足を運んだ。後期高齢者が中心の約120人の入居者の介護を始めたが、「Aが担当したのは、食事や入浴の介助。でも、3カ月もすると『高齢者のシモの世話に耐えられない』と話し、結局辞めてしまいました」(Aの知人)。

 父と対立し、孤立を深めていくA。やがて自室にこもり、ゲームやネット動画の世界に耽溺するようになる。海外サイトにアクセスしては、女性が殺される動画を好んで視聴していた。

 介護施設を辞めた後のバイト先では、周囲に「ゲームのレビューを紹介するブログをやっている。これを収益化したい」と瞳を輝かせていたという。

 今年2月、Aは製造業の工場で働き始めるが、ここでも動画への執着を隠さなかった。社長が振り返る。

「彼はハローワーク経由で工場見学に来て、今年2月15日から勤務していました。面接のとき、『ユーチューバーをやっている。6〜7万円稼いだことがあります』と話していました」

 だが、勤務態度は及第点に達しなかった。

「作業中、Aの耳には常にイヤホンが差し込まれていた。『そんなものをしていたら話が聞こえないだろ』と注意したら『邪念が入ってこないようにつけている』と返答され、びっくりしました。作業開始のサイレンが鳴っても戻らず、放送で呼び出したこともありますが、トイレでゲームでもやっていたようです」(同前)

 この頃Aは、先輩スタッフに突然、挑むような視線でこう言い放ったという。

「この世の中って、おかしいと思いませんか?」

 Aが現場の責任者に電話をしてきたのは、4月26日のこと。

「突然『もう辞めたい』と。『そういうことは電話ではなく、直接言いに来なさい』と呼び出し、理由を聞いたら、『ゲームの攻略本を作りたいから』と説明していました」(前出・社長)

 その1カ月後の6月1日、Aの姿は立川駅前のラブホテルの一室にあった。午後3時半頃、風俗店から派遣されたB子さん(31)が入室すると、Aは「動画を撮影したい」と願い出た。当然、拒否したB子さんは「盗撮です。すぐ来てください」と店に助けを求める。それに激高したAは、包丁を握りしめて襲い掛かった――。

 B子さんを刺している最中、駆け付けた風俗店員の男性(25)が部屋をノック。ドアを開けた瞬間、Aは男性の腹部を刺し、廊下の壁に包丁を突き刺して逃走した。B子さんは全身を約70カ所刺されて即死。男性も意識不明の重体に陥った。

亡くなったB子さん(SNSより)

「大人として自覚をもって」

 逮捕後、Aは動機について、こう供述している。

「ネットで人を殺す動画やグロテスクな動画を見て、刺激を受け、女性と無理心中する様子を撮影しようと思った。殺した後に自分も死ぬつもりだった」

 さらに、「自分は誰からも愛されていない」「生まれてこなければ良かった」とも漏らしたという。

 Aの父は息子の懊悩と動画への執着について何を思うのか。Aの逮捕翌日、携帯電話で取材に応じた。

――息子さんが事件を起こしたことについて、どういう思いでいる?

「何とも言えないですね」

――高校のとき、いじめを受けていた?

「何かあったと思いますよ。本人も色んな悩みがあったんでしょうし」

 その後、父は堰を切ったようにこう話した。

「(被害者の傷が)70カ所なんて(報道に)出ているけど。深くズボズボ刺しているような感じで書いてありますけど、よくよく聞いてみたら防御創とか、そういうのも含めて全部ですから。でも、亡くなっているので、これ以上は話せません。本人も未成年ではあるんですけど、大人として自覚をもってもらいたいなって思います。僕は本当に何もできないような無力さを感じるし。本当に亡くなった方には申し訳ない」

――人を殺す動画を撮ろうとしていたようだが。

「いろんな話が出てきていますが、本人はそこまでって言うか……」

 命を奪われたB子さんと同じ職場で働いていた友人が、無念を口にする。

「彼女は韓国のヒップホップグループ『BTS』の大ファンで、時には50万円の“神席”のチケットを取るほどハマっていました。昔から『いつか結婚して幸せに暮らしたい』と。辛い仕事をしてもやりたいことは自分の手で叶えてきた人生だったのに」

 当初は雄弁に供述していたAだが、弁護士の接見後から黙秘に転じている。

source : 週刊文春 2021年6月17日号

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