「イチローって、実は次男なんだってさ」

　朝食時、スクランブルエッグじみた失敗オムレツを文句も言わず口に運びながら、優大(ゆうだい)は言った。

「父親の宣之(のぶゆき)さんが祖父の『銀一』からとって、二人の息子に『一』を入れたらしい。長男は一泰(かずやす)、次男は一朗。兄弟で差を付けたくなかったって説もあるらしいが、何も『ロウ』を選ばなくてもな。誰だって勘違いする」

　話を投げかけている相手は、妻の莉奈(りな)だった。一応会話の体を取っているものの、実質独り言に近い。子供が生まれてからというもの、妻にとって夫の相手は二の次、三の次だ。特に朝は息子の登園や娘の登校支度で忙しく、優大も聞き流されることは分かっていて、どうでもいい話題を一人つぶやくことが習慣となっている。

　だが、その日は違った。