朝五時。いつもより早起きした中道(なかみち)は海沿いの小道を散歩していた。日の出が近づき、薄明で水平線が明らんでいる。穏やかな瀬戸内海と空の境界をこじ開けるように(くら)いオレンジ色が染み出てくる。

 遥か彼方の水平線と違い、海沿いの道はまだ暗く、街灯がチカチカ点っている。寂れた瀬戸内の港町、それも港とは逆方向なので、人の気配はない。海の反対側は森が鬱蒼と茂っている。朝から騒がしく鳴き立てるカモメの声もまだしない。静寂の中、岩礁に波が押し寄せる音が繰り返し聞こえてくるだけ。

 やがて岬のように海に突き出た小さな山が見えた。波霧(なみきり)城という名の古城だ。五十メートルほどの高さの小山の山頂に本丸がある。

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source : 週刊文春 2025年12月11日号