11月22日(土)

 ゆとり世代ではないので、ゆとりと聞くとユトリロ。何だかやけに寂しそうな街の絵が先ず浮かぶ。

 小学生の頃、うちの応接間にもそんな絵が掛けてあった。額縁にこそ入っていたがもちろん複製品。『開運!なんでも鑑定団』に出そうものなら一笑に付されてしまう印刷物。

 それに応接間といっても和室に絨毯を敷き、無理矢理洋風に見せ掛けた六畳間。長い釘で止めてある絨毯の端がよくめくれ上り、パンチラならぬ畳チラしてた。そんな和洋折衷応接間にも飾りたいほどユトリロの絵は昭和の必須アイテムだったのだろう。当時の僕は全くグッとこなかったけど、一度くらい本物を見ておいてもいい。ちょうどSOMPO美術館で『モーリス・ユトリロ展』をやっていたので足を運ぶことにした。

 モーリスといや、ギターのメーカーしか知らない。そんな程度だから、ぼんやりイメージしてた人物とは違ってた。家族との複雑な関係や、幼少期からのアルコール依存!?

 ボードに記された人生遍歴を読んで、大成するまでユトリロにはゆとりなどなかったことを知った。それで、何だかやけに寂しそうな街の絵の“何だか”の謎が少し解けた気がした。

 同時に、そんな絵を来客を迎えるための応接間に飾ってた意味が増々分からなくなった。だったら、これまた昭和の応接間の定番、マリー・ローランサンの絵の方が色彩も明るく“ボンジュール”な感じが出せたのではないかと思った。でも、ユトリロにも大成された後、色彩の時代があったことを知った。その理由のひとつは結婚。“寂しかった僕の部屋にバラが咲いた♫”のだろうか。街の絵だけじゃなく花もお描きになってた。会場で流されていた晩年の作画風景の映像を見て、ホッとした。

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source : 週刊文春 2025年12月18日号