今年で49回目を迎えた「ミステリーベスト10」。国内部門ではランクイン2回目となる著者が初の長編で堂々戴冠!(著者インタビュー記事はこちら

1『失われた貌』

身元を隠蔽された謎の死体
失踪した父を捜す小学生
すべてが絡み合う警察小説

 6月29日、J県媛上(ひめかみ)市の山中で、死後数日を経た死体が発見された。40代から50代と見られる男性だが、下着しか身につけておらず、顔は叩き潰され、歯はすべて抜き取られ、両手首は切断されて欠損しているなど、身元特定につながる手掛かりは徹底的に隠蔽されていた。媛上署捜査係長の日野雪彦は、この事件の捜査を担当することになった。

 検視のあと、日野は検視官の鷹宮から、地方紙に媛上署への苦情が掲載されたと告げられる。生活安全課が、不審者による声かけ事案に適切な対応をとらなかったというのがその内容だ。生活安全課長は日野の同期の()(ぼろ)警部。日野が知る若い頃の羽幌は、いい加減とは程遠い性格だった。

カット 山本さほ

 やがて、生活安全課を小沼隼斗という小学生が訪れた。山中で見つかった死体が、10年前に失踪した自分の父親・小沼憲ではないかというのだ……。

 短篇集『蟬かえる』で日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した著者が、初めて発表した長篇である本書は、一見無関係そうなあらゆる要素が一つにつながる、精緻な構成の警察小説にして本格ミステリーだ。

新潮社 1800円+税

ここが魅力!

白井智之「新しさよりも懐かしさに心を掴まれた謎解き警察ミステリ」

円堂都司昭「派手な設定ではないのに、細やかな仕掛けが豊富かつ巧緻に組み立てられていて、なんて贅沢なミステリなんだろう」

斉藤兼子(BOOKSなかだ掛尾本店)「ミステリ好きの間で人気の著者が初めて警察小説を出したことで話題に。この作品で初めて著者の作品を読んだというお客様も多かった」

野波健祐「ハードボイルドと本格ミステリーの見事な融合体」

堀啓子「暗鬱な冒頭、科学捜査を無効にさせる遺体などの要素が戦前の探偵小説を彷彿させる」

森谷明子「ミステリだから、謎解きが堪能できなければ。その基本を骨太に守りつつ、しかも明かされていく真実、家族の思いが切なく、胸に迫る」

秋好亮平「緊迫感のある捜査の進展とともに意外な情報が飛び出す。カードの切り方が秀逸」

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source : 週刊文春 2025年12月11日号