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 ひとめぼれは可憐な欲望、鈴蘭の香り。

 好きだ。(しょう)()りもなく、ただ彼が好きだ。

 意味のない恋愛など無いといままでずっと思ってきたが、いまの私の彼に対するこの気持ちこそ、(のが)れられない、みじめで可憐な欲望だ。

 どれほど身を焼き尽くそうとも、まちがいから逃げきれるはずもない。

 ひとときの安寧(あんねい)を求めて彼の胸に飛びこみ、結局(よろこ)びも安らぎも自ら手放そうとも。

 ありきたりの概念に(しば)られて、善悪を見誤り、逃れたつもりでまた彼の手へ落ちてゆく。

 信頼していない者に律儀に義務を果たし、私が幸せにできる人に、さよならと手を振る。

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source : 週刊文春 2026年1月29日号